御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「いまは仕事一筋なんだよ。それに会話したこともない、家柄とお金目当てだけな相手を好きになれるか」
「はいはい」

 店主が呆れた顔で彼を見るなり離れていく。
 私は彼等の間で交わされるやり取りに入れないまま残ったお酒を口に運んだ。

 この前と同じで味が濃くておいしい。
 自分でお酒を買うことはめったにないけれど、ほろ酔い気分になれてちょうどよかった。

「……私、そろそろ行きますね。今日もごちそうさまでした」

 グラスを空にし、カウンターの端に寄せる。
 もう一杯どうかと店主から誘われたけれど、首を振った。

「これ以上は酔っちゃいそうなので」
「酔ったら俺が家まで送りますよ」
「さすがにそこまでは頼めません」

 ぶんぶんと首を振れば、店主がにやりと悪い顔で笑った。

「フラれてざまぁないねぇ」
「うるさいな……。あっ、お代は結構ですから。今日も俺が無理やり引き込んだようなものですし」
「でも……」

 いいからと念を押されて、私は鞄に伸びかけていた手を引っ込める。
 この前と同じように彼にお見送りをされて、また来るようにと言われた。

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