御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 よく見ている父だ。昔から従業員が困っていると、彼らが助けを求める前に自ら率先して手を差し伸べていた。
 そういうところが堅物でありながら好かれるところだと誇らしく思っていたけれど、いまだけはその洞察力を発揮してほしくなかった。

「……違います」
「そうですか。私のことを想ってくれていたのなら喜んだのに……」

 彼がにこりと、だけどどこか憂いを含んだ笑みを浮かべる。

 あらかた食事を終えた父は、お邪魔虫になるからと余計なひと言を置いて席を立った。

「細かい手続きはまた後ほど。娘を残しますので、どうぞごゆっくり」
「ちょっ、まっ……!」

 待って、と止める前に父が一礼して去っていく。
 私たちが顔見知りだとわかって、安心したのもあるのだろう。縁談のことはお前に任せると言わんばかり、置いていかれてしまった。

「…………」
「………………」

 沈黙が落ちる。九条さんは気まずさを感じてもいないのか、のんびりと御膳を楽しんでいた。
 
「あの、いくつか聞いてもいいですか……?」
「はい、どうぞ」
「うちの会社に出資するっていうのは、本当ですか?」
「本当です。ホシナ工業所の技術と実績は素晴らしいですから。それでいて、ニッチな部品の生産にも柔軟に対応してくれる。なかなかこういった会社は見つかりまさん」
「そう、ですか……」

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