御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 これから、彼の妻になるのだ。
 確かに、夫のことを九条さんと呼び続けるのも変だろう。うっかり外で九条さんと他人行儀な呼び方にならないよう、注意しなければ。

「千尋からも、なにかある?」
「えっ」
「もし、追加してほしいことがあれば書き足すけど」

 そう言われて、私はうーんと悩む。
 彼からの要望は大した負担にもならないことだ。そもそも、私にとってこの結婚は苦痛を伴うようなものではない。
 彼から同じだけの気持ちが返ってこないことは辛いけれど、好きな人と一緒にいられる生活は、この上なく幸せなことだった。

 だからこそ、いまの関係を壊してはならないと思う。
 好きという気持ちに蓋をしなければ。
 とにもかくにも、これ以上彼を好きにならないようにしなければ……。
 

「好きに、ならない……」
「ん?」
「その、あくまで契約妻なので……。恋愛感情を持つのはよくないことなのかな、と」

 彼にとって不要な感情だろう。疎ましく思われても困る。
 恋愛感情は持たないこと、夫婦の営みを求めないこと、この条件は絶対だった。あくまで私が私に対して課す条件として、だけれど。

「あと、夫婦生活はしない、とか……?」
「……わかった。千尋がそう言うなら」

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