御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 被っていたハットを外し、会釈するお義父様に会いた口が塞がらない。
 まさか、バーの店主が蓮さんのお義父様だったなんて。
 説明を求めて彼を見上げたら、黙っていてすまなかったと返ってきた。

「あのバーは、俺の趣味でやっていてねぇ」
「だから、いつも蓮さんがいたんですね……」
「まぁ、そういうことだな。俺は九条御景(みかげ)と言います。改めてよろしく頼むよ、千尋さん」
「はい」

 お義父様から手を差し出されて握る。
 立ち話もなんだからと、私たちはソファーに座った。

「あっ、私、飲み物用意しますね」
「いい、俺がやる」
「でも……」
「いいのよ、千尋さん。蓮にやらせておけば」
「そうそう。アイツに働かせときゃいい」

 やいのやいのと言われて、蓮さんが面白くない顔で立ち上がる。
 残された私は、両親からニコニコと笑顔を向けられた。

「まさか、こーんなに可愛いお嫁さん候補がいただなんて。なんで言ってくれなかったのかしら。そしたら縁談なんてぜんぶ断ったのに」
「縁談……。やっぱりたくさんそういう話があったんですよね……?」
「まぁねぇ。一応、俺たちは九条グループっていう企業を動かしているから。蓮も二番目とはいえ、うちの大事な跡継ぎ候補だ」
「候補もなにも、跡は兄が継いだだろうが」

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