御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 ピリッとした会話の内容に、自然と背筋が伸びる。

 日本経済を牛耳る九条グループの人間が三人もここにいるのだ。傍から見ても、三人のいるところだけがただならぬ空気を醸し出している。
 そこに私という異物が混ざることに、いまさらながら不安がよぎった。

 ――絶対、彼の邪魔になるようなことだけはしないようにしないと……。

 良き妻として、演じ切らなければ。
 そこには甘い情はもってのほか、浮ついた恋など捨てねばならない。同じだけの愛が返ってくるとは思ってはならない。
 私はただ父の会社を、思い出の場所を救ってもらった側の人間なのだ。
 身分をわきまえなければ。

「……お待たせしました。お砂糖と、ミルクも一応持ってきました」
「ありがとう」

 お義母様が追加の砂糖をコーヒーに入れる。
 さっきとは打って変わって、ピリついた空気は霧散していた。

「あ、そうそう。このあと、蘭も来るから」
「はぁ!?」
「ちょうど蘭も、雪さん……えっと、蘭の奥さんなんだけど、その二人が仕事で忙しいそうで、楓くん連れてくるから、ついでに見てて、って」
「いや、さすがに困る!」
「まぁまぁ、そう言わず。楓くん、蓮に会いたがってたし、いーよーって言っちゃったのよ♡」
「だから、すぐそうやって勝手なことを!」

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