御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 トタトタと部屋の奥から戻ってきた楓くんの手にはなにやらおもちゃが握られている。
 そんなもの、どこにあったのだろう。物置部屋として使っている部屋があるとは聞かされていたけれど、そこから持ってきたのだろうか。
 楓くんの手には電車のおもちゃやぬいぐるみが握られていた。

「早くあそぼ!」
「わかったから引っ張るな……」
「じゃあ、頼んだよ、蓮。千尋さんも、またね」
「はい、また」

 蘭さんが大人しくするように楓くんに言いつけて、挨拶もそこそこに帰ってしまう。
 本当に私のことを一目見るついでに楓くんを預けに来たようだ。
 残された楓くんは、寂しがるでもなく蓮さんのズボンの裾を引っ張った。

「ごめん、千尋。今日一日、楓も一緒になってしまうんだけど……いい?」
「もちろんです。それにしても、よく蓮さんに懐いてますね」
「たまにおもちゃ目当てで家に来るから……」

 服が伸びるからやめろと楓くんを窘める蓮さんの口調は優しい。
 きっとおもちゃだって蓮さん自ら揃えたものなのだろう。そう思うと、微笑ましかった。

「はやく、いこう」

 今度はくいくいと私のワンピースの裾も引っ張られる。
 私は目線を合わせるようにしゃがむと、楓くんの手を握った。

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