御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 周りとほぼ同じ時間に出ようとする私に、上司が目を丸くする。

 私の会社は、ほとんどの人が定時で上がる。
 社長や部長などの役員陣は残業していることもあるけれど、それでも稀だ。
 むしろ、私が一番最後まで残っていたといっても過言ではない。
 営業の人たちもそのまま直帰してしまうため、いつもオフィスには私だけが遅くまで残っていた。

「……はい。家のこともありますし……」

 厳密には前ほど残業をして稼ぐ必要がなくなったからなのだが、そんなことは口が裂けても言えないため、家のことをするためだと濁す。
 実際に夕飯の準備をしなければならないため、嘘ではなかった。

「そうか、それもそうだな。気をつけて」
「はい、失礼します」

 いつもよりかなり早い退勤だから変な感じだ。
 帰宅する人たちに混じって階段を下りていると、なにやら入り口の方からきゃあきゃあと騒ぐ声が聞こえてきた。

「あぁ、千尋。やっと降りてきた」
「れ、蓮さん……!?」
「ちょうど帰る頃だと思ったから迎えに来た」
「なんで……」

 彼がどうして私を迎えに来たのか、本気でわからない。
 私は不思議に思いながらも、従業員に囲まれている蓮さんのもとへ向かった。

「みなさん、ありがとう」
「いえ、どういたしまして〜」

 給湯室で噂をしていた先輩が蓮さんに会釈する。
 何事かと蓮さんを見上げれば、「千尋がいつ頃会社から出てきそうか聞いていた」と、私の疑問に答えてくれた。

「帰ろう、千尋」
「は、はい……」

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