御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 従業員たちの複雑な視線を受け止めながら、蓮さんと共に歩いていく。
 本当は車でかっこよく迎えに行きたかったと言われて、そんなことは絶対にやめてくださいと釘を差した。

「冗談だよ。ただ、千尋がどんなところで働いているのか見ておきたかったのと、ちょうど親父に呼ばれてな。千尋も一緒にバーに来てくれるか?」
「もちろんです」

 私たちが出会ったバーはすぐそこだ。
 蓮さんは鉄扉のドアノブにカードキーを押し当てると、扉を開いた。

「鍵、持ってるんですね……」
「ほぼ、親父の趣味でやってる店だから。家族はみんなキーを渡されてる」

 蓮さんは勝手知ったると言わんばかりに扉を開けると、私を先に通した。

「おー、蓮に千尋さんも。いらっしゃい」
「マスター、いつもの」
「はいはい」

 蓮さんはここではお義父様のことをマスターと呼ぶ。なんでも、この店ではそれがルールなんだとか。
 一応、会員制のバーということで、たまに知り合いが入ってくることもあるらしく、身内贔屓はできないからということだった。

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