御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 美しい所作でお辞儀をする女性につい見惚れてしまう。
 艷やかな黒髪に和装姿の女性は、私から見ても美しく、控えめに笑う口元には品があった。

「ずっと、蓮さんを探しておりましたのよ」

 凛とした彼女の声が鼓膜をスッと通る。
 彼女は私を見るなりにこりと笑うと、蓮さんの腕に抱きついた。

「私の父が呼んでおりますの。ぜひ、蓮さんにご挨拶したいと」

 彼が無言で逡巡する。
 きっと彼の頭の中で彼女の父の姿を思い浮かべ、挨拶すべきか否か悩んでいるのだろう。
 彼女が「今後のことでもご相談が」と追撃したことで、彼の中で答えが出たようだった。

「……わかった。ちょうど進めている話もあるし、少しだけなら」
「ありがとうございます。……それで、そちらの方は?」

 さっきの微笑みとは打って変わって、冷たい視線を投げ付けられて、ひくっと喉が鳴る。
 蓮さんの妻として振る舞わなければ、と思うのに、彼女の圧に気圧されて何も言えなかった。

「彼女は俺の妻だ」
「つ、ま……?」
「あぁ。最近、結婚した」

 彼女の腕を振り払い、彼が私の腰を抱いて引き寄せる。
 よそ行きの営業スマイルで、彼が私に笑いかけた。

「ほら、千尋もご挨拶」
「は、はい……! 九条千尋と申します」

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