御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 勢いで頭を下げる。
 彼女はふんっと鼻を鳴らすと、無理やり私から彼を奪った。

「……行きましょう。父が待っていますから」
「千尋、悪いけど少し待っててくれるか?」
「……はい」

 強引に彼を連れて行く弥生さんを止めることができない。
 だけど、ちゃんと蓮さんの妻として挨拶することはできたのだ。
 ひとまず契約妻としての責務を果たせたし、初めて彼のメリットにもなれた。
 しっかりと役に立てたはずなのに、ぽつんと残されてしまって悲しい。
 彼にとって本物の妻ではないのだから、ビジネスを優先するのは当たり前だとわかっていても、胸が痛むことには変わりなかった。

 ――ここに立っていても邪魔になるし、一旦外に出よう……。

 私には知り合いもいない。壁際には豪華な料理が並んでいるけれど、お作法がわからないまま手を付けるのはやめたほうがいいだろう。
 とにかく、さっきから女性たちから向けられる敵意の目に息が詰まる。

 私は早々に人混みを抜けると、会場の外にあるソファーに座った。
 目の前を通り過ぎる人たちを見て、改めて自分が場違いの人間であることを思い知らされる。

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