御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 きっと彼等の一声で、世の中が動くのだろう。
 九条グループの規模を思えば、白を黒にすることなど容易い。

 そんな財界の人間たちや政治絡みの人たちが参加しているかもしれない場に、片田舎から出てきた町工場の娘がいる。おまけに九条グループの御曹司である九条蓮の妻ともなれば、気になるのも当然だろう。
 ほんの少し彼と会場を歩いただけなのに、もう認知されているのか、いまだに刺さるような視線を向けられた。

 ――蓮さん、まだかな……。

 あの感じだと、他の人間にも捕まっている可能性がある。
 私はソファーから立ち上がると、人混みを抜けて会場近くの化粧室に入った。

 さすが一流ホテルだけあって、化粧室も広く、手洗い場には鏡が並び、ソファーまで置かれている。
 私はそこで化粧を直すフリをしながら、ソファーに腰掛けた。

「はぁ……」

 無意識のうちにため息が出てしまって、慌てて周りを見渡す。幸いにして人はいなかった。
 鏡に映る自分の姿を見て、改めて綺麗なワンピースだと見惚れてしまう。
 指輪もネックレスもイヤリングすらも、大粒のダイヤがあしらわれている。
 着せられている、と言ったほうがよく、私には不釣り合いな物だった。

< 98 / 139 >

この作品をシェア

pagetop