勘違い一夜から始まる極甘策士なドクターの激愛婚〜偽装結婚は旦那様の甘い罠でした〜
 そういえば今、笑顔を作ろうと意識していなかった。そうなるのは信頼できて気を許せる相手だけなのに、どうしてだろう。

 というか、仕事のときと雰囲気が変わるのは私も同じだったのかと、今さらながら気づかされた。

「先生、よくわかりますね。仕事中に人と接するときは常に笑顔を心がけているんですけど、普段の私は父に似て無愛想なんです。意識していないとすぐ表情が無になるって、仲のいい友達からは言われます」
「そうだったのか。たしかに、八影社長は冷酷ってイメージかも」

 なんとなく頬に手をあてて打ち明けると、先生は納得した様子で笑い、今プリントされた写真を手に取る。

「じゃあ、俺の前では素を見せてくれてるってことだね。これも、本物の君の笑顔だ」

 ひらりと掲げられたそれには、こんなにいい笑顔ができるんだ、と自分でも思うくらいの私が写っていた。

 芹澤先生の前では、自分を取り繕わないでいられるということだろうか。まだ数回しか会っていないのに……そんな人は初めてかもしれない。

 鼓動がとくとくと弾むのを感じていると、彼は優しい瞳で一度写真を眺めた後、白衣のポケットにしまう。

「これは俺がもらっておこう」
「え!? あ、あの、誰にも見せないでくださいね? 恥ずかしいので」
「もちろん。俺だけのものにする」

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