執愛滾る脳外科医はママと娘を不滅の愛で囲い込む
 そうだ。
 せっかくだから、隣の棟にあるカフェベーカリーに寄ってから帰ろうかな。
 先日、母の見舞いに来た篤紀がそこのクロワッサンサンドとベーグルが美味しいと言っていたことを思い出したのだ。
 一瞬、中庭を突っ切ろうと思ったのだけれども、来た時よりもさらに雨脚が強まっているのに気づいた。
 少し遠回りになってしまうけれど、連絡通路から行こう。
 急遽、方向転換し歩き始めたのだが、その選択がまずかったのかもしれない。
「ん? あれ?」
 ここは、さっき通ったところの気がする。
 数分後、方向音痴の私は入り組んだ廊下で途方に暮れていた。
 近くにあったフロアマップとしばらく睨めっこしていると、奥の方から子どもの泣き声が聞こえてきたのに気づき、意識がそちらに流れる。
 廊下の先を見れば、パジャマを着た小さな女の子がしゃがみ込みながら涙を流しているのが見えた。
 パジャマ姿ということは、彼女は入院患者なのだろう。
「大丈夫? 具合でも悪い?」
 思わず駆け寄り、女の子の顔を覗き込む。
「おねえちゃんにもらった……たからもの、なくしちゃったの」
 聞けば、みんなでかくれんぼをして遊んでいるうちに、お姉ちゃんにもらったシュシュをなくしてしまったらしい。そのシュシュは誕生日プレゼントにもらった大切なものらしく、だから彼女が『宝物』と発言したのだと理解した。
「私も一緒に探すから泣かないで」
 そう言うと、女の子は泣きやみ頷いてくれた。
 
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