執愛滾る脳外科医はママと娘を不滅の愛で囲い込む
「送信……と」
 その日、取引先にメールを返信してから、帰り支度を始めた。
 定時の十八時を過ぎていたので、オフィスに残っている人はまばら。
 さて、今日もこのままコンビニ弁当を買って帰宅コースか。
 実家を出てひとり暮らしをしているので、ご飯はほぼ買い食いで済ませている。
 付き合っている人でもいれば、料理に精がでるのかもしれないが。
 仕事人間の私には、そんな相手もいないわけで……。
 これはこれでヤバいのでは?
 今年三十路(みそじ)を迎えたことで私の行く末を心配する母親からは、事あるごとに見合い話をされる始末。それがちょっと煩わしくて、電車で数駅のところに住んでいる母のもとにはあまり顔を出していない。
 実家には五歳年下の弟、(あつ)()が一緒に暮らしている。母ひとりというわけではないので、体調面の心配はしていないけれど。
 もうじき父の命日なので、実家に顔を出さなくては。
 父は私が高校二年生の時に交通事故で亡くなり、それを機に母の実家がある(よこ)(はま)に引っ越し、今に至る。
 父が亡くなってから女手ひとつで私たち姉弟を育ててくれた母には、本当に感謝してもしきれない。ひとり暮らしを始めてから、さらに親のありがたみを感じるようにもなった。
「それにしても暑いな」
 七月初旬の街は、夜になってもなお、もわっとした熱気に満ちている。
 じんわりと汗ばむ首もとに手を置きながら地下通路に潜り込もうとしたその時、鞄の中のスマホが震えているのに気づき足を止めた。
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