執愛滾る脳外科医はママと娘を不滅の愛で囲い込む
 ◇◇◇

「新作発表会の準備は順調?」
 仕事終わりに見舞いに行くと、母は満面の笑みでそう尋ねてきた。
 あの日、蓮斗くんがすぐに処置をしてくれたおかげで、母は後遺症もなく順調な回復をみせている。このまま順調にいけば、退院もさほど遠くはないだろう。
「うん。いい感じに進んでるよ」
「それはよかったわ。新作発表会までに退院できるかしら? 瑠璃の晴れ舞台だから見に行きたいのよね」
 母が頬に手を当てながらそう言う。
 今回の新作発表会では、私がデザインしたランジェリーが数点採用されているので、母は発表会に来ることを前々から楽しみにしていたのだ。
 気にかけてもらえるのはうれしい。でも……。
「まずは体調優先だからね。無理は禁物」
 布団をかけ直しながら、優しくそう諭す。
「無茶はしないでね」
 二度釘を刺したのは、母がじっとしていられない質の人だから。
 とにかくアクティブで、仕事が休みの日も家でじっとはしていない。趣味のフラダンスや陶芸、旅行などに出かけて楽しんでいる感じなのだ。
「はいはい、分かりました」
 私の圧に根負けしたのか、母が苦笑いをしながら頷く。
 その直後、部屋にノック音が響いた。
 顔を出したのは、蓮斗くんだ。
 母は主治医である蓮斗くんと頻繁に会っているみたいで、今日はこんな話をしただとか報告を受けていたけれど、私の方は顔を合わせたのは初日以来。
 だから免疫などまったくあるはずもなく、無意識に心音が大きくなる。
 鎮まれ、鎮まれ……。
 とにかく落ち着くのよ。
 呪文のようにそう唱えながら必死に平静を装い、白衣姿の彼を見上げる。
「あら、蓮斗くん」
 一方、母の声色は明らかに弾んでいた。
 戸惑いでいっぱいの私とは対照的。小さい頃から蓮斗くんをかわいがっていた母からしてみたら、息子と再会したみたいな感覚でうれしいのかもしれない。
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