電話越しで恋をした副社長から、突然プロポーズされました

目が覚めるとホテルのベッドの上にいた。
一緒に眠っていた彼の匂いが残っている気がする。
あれは夢ではなく現実だったのだと思い知らされる。
あまりにも幸せだったので、ここから起きたくない。
このまままどろんでいたい気分だった。しかし隣に手を伸ばすと翔太さんはもうすでにベッドにはいなかった。
ハッとして目を開ける。
ソファでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる翔太さんの姿が目に飛び込んできた。
ベッドの上で起き上がると彼がこちらに視線を向ける。
「明菜、おはよう」
「おはようございます」
彼はスーツも持参していたようで、副社長モードになっていた。
自分だけがまだパジャマ姿でノーメイク。
恥ずかしい姿を晒してしまっている。
……あれは、夢だったのかな?
ぼんやりしていると彼が近づいてきた。ベッドに腰掛けると少し沈む。
そして頭を優しくポンポンと撫でてきた。
「少し早い飛行機で帰らなければならなくなった。急な仕事が入ってしまって……」
日曜日なのに副社長の彼は関係なく仕事があるらしい。
それなのに隣でゆっくり眠っていた私が自分に幻滅してしまった。
「ごめんなさい……」
「なんで謝る?」
「おやすみモードだったので……」
「そんなこと気にしなくていいんだ。ゆっくり休んで、好きな時間にチェックアウトしてくれていいよ」
 そう言うと翔太さんは立ち上がった。そしてカバンを手に持つ。
「じゃあ、そろそろタイムリミットだから。また会いに来る」
 爽やかな笑顔を向けて彼は部屋を出て行った。一人取り残された私は寂しくて、瞳から涙が溢れていた。

   *

明菜と離れたくなかったが、東京と札幌に住みながら恋愛するということは寂しさも伴うということはある程度覚悟していた。
飛行機に搭乗し窓際の席に座る。
だんだんと小さくなっていく北海道を眺めながら、早く明菜に会いたいと思う。先ほど別れたばかりなのにこんなにも彼女のことを愛おしく思うなんて。
しかも十一歳も年下の新入社員に。
初めて会った日のことを思い出す。
正義感が強くて人のことを放っておけない彼女が、うちの新入社員だと知ってすごく嬉しかった。
彼女は俺の顔を知らないまま仕事の補佐に回ってくれることになり、北海道支店がなくなる頃には俺の部下として働いてもらう予定だった。
いつも事務所で一人で働いている彼女のことを気遣って、他愛のない話をすることも多かった。
かわいらしい声が電話の中から聞こえてきて、実際に会って話をしてみたいと強く思うようになった。
女性に対してこんな感情を抱いたのは初めてだ。
これは運命の出会いだったのかもしれない。
自分の中に独占欲がわき上がってきて、副社長という立場があるのに、思いを伝えたい気持ちが膨らんでしまったのだ。
結婚を前提に付き合ってほしいと告げた。
もちろん彼女の全てを守り抜くと覚悟して告白をした。
突然の告白に彼女は困惑しているようだったが、悩んで俺との交際を受け入れてくれたのだ。
恋人になった日にキスをして添い寝して。
愛らしくて、幸せな一夜だった。
あまりにもかわいらしかったのですべてを奪ってしまいたかったが、彼女のことは大事にしていきたい。今はここまでだと決めていた。
ゆっくりと進んでいければいいと思っている。
来年から一緒に東京で暮らすことができ、同じ職場で働くことができる。
しかし結婚となると彼女は働きづらくなってしまうかもしれない。
寿退社でもいいと俺は考えているが、新入社員の明菜はきっと働きたいという意欲もあるはずだ。それを自分が縛り付けてもいいのだろうか。
< 17 / 68 >

この作品をシェア

pagetop