電話越しで恋をした副社長から、突然プロポーズされました

   *

「え? 副社長と付き合うことになったの?」
大学時代の友人である沙織(さおり)と仕事帰りに約束して、居酒屋で話をしていた。
あまりにも非現実的なことだったので、誰かに話を聞いてもらわなければ現実として受け止めることができなかったのだ。
「あのイケボの副社長だよね?」
「うん。実際にお会いしたら声だけじゃなかった……」
「優しくてイケメンでイケボで、最高なんじゃない? しかも副社長だよ!」
「結婚を前提にって言われたんだけど……」
沙織は飲みかけていたビールを吹き出しそうになった。
「玉の輿なんじゃん」
「私のことを好きになってくれたきっかけを熱く語ってくれたんだけど……どうも信じられなくて」
「確かにね。年上の男性だし、社会的にも地位があるから……まあこれからの行動を見て信じられるかどうかってことだよね。それにしても初めての彼氏が超エグゼクティブで羨ましい!」
これからの行動を見て信じられるかどうかを判断する。
私は彼の気持ちは本物だと信じているから一夜を共にしたけれど……。
もしかしたら、そんなに長く続く関係じゃないかもしれない。
って、私は翔太さんのことが好きだからこの交際を選んだのだ。
一日でも長く一緒にさせてもらって、本当に結婚することができるまで自分も努力しなければならない。
おしゃれもメイクもあまり得意ではないし、教養も身につけたい。
「ねぇ、沙織」
「ん?」
「ファッションとかメイクとか私疎いから教えてもらえないかな?」
必死でお願いすると沙織はニヤリと笑った。
「副社長のことが大好きなんだね。よっし! もっと愛されるように自分磨き頑張ろう! 私も気になっている人いるから、一緒にね」
私は大きくうなずいた。

早速、その夜から、体を引き締めるために自宅でできる運動を始めた。
肌をキレイにするために基礎化粧品も見直した。足りないものは明日の夜に購入してこよう。
でも新入社員の私はそんなに収入が良くないから、なるべくプチプラで。
沙織がファッションやメイクのコツについて教えてくれて、おすすめの動画も送ってくれている。
翔太さんにはいつ会えるかわからないけれど、とにかく前向きに頑張っていこうと決意をしていた。
今日は副社長は何本も会議が入っていたようで、職場の電話で話すこともできなかった。メールもなかったし私は事務所の仕事をしていた。
パックを終えてソファの上で休んでいると、翔太さんから電話がかかってきた。
「お疲れ様です」
『今何してた?』
運動してパックをしていましたと告げるのが恥ずかしくて、テレビを見ていたと言ってごまかす。
「今日は忙しそうでしたね」
『そうだな。でも明菜の声を聞いたら元気が出た』
鼓膜が彼の声でくすぐられているみたいで、全身がくすぐったい。甘いベッドの一夜のことを思い出してしまう。
「仕事帰りに大学の友人と食事してきて、先ほど家に戻ってきたんです」
『楽しかった?』
「はい」
『それはよかった。今度紹介してほしい』
「ぜひ」
今までは電話ができるだけで十分だと思っていたのに、翔太さんのぬくもりを知ってしまったら、切なさが胸を押し寄せてくる。
今度はいつ会えますか?
素直に聞くことができればいいのに、私は恋人にどこまで甘えていいのかもわからない。嫌われたくないという気持ちが先行してしまう。
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