電話越しで恋をした副社長から、突然プロポーズされました
「ただいま」
所長が戻ってきた。
「お疲れ様です」
「変わったことはなかったかな」
ホワイトボードの外出という文字を消して自分の席に座りながら問いかけてきた。
「特にありませんでした」
「話をしておきたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
改まった感じだった。
「十月からは、本社に行ったり来たりする生活が少し続くかもしれない。こちらの仕事を片付けつつ、あちらの仕事も覚えてもらおうということになったんだ」
「そうだったんですね……」
副社長の近くで仕事ができるのは楽しみだけど、来年から本社で働くと思っていたので緊張して唇が少しだけ震えた。
「不安ですよね。環境が急に変わるので」
「はい。でも楽しみでもあります」
「本社にはたくさん人がいるのでいろんなことを学べると思いますよ」
所長がにっこりと笑ってくれた。
今、所長と話をしていても、私はやはり仕事を続けたいと強く思う。
どれくらいの期間かと言われたらわからないけれど、副社長が待ってくれているなら三年、五年と社会人として働いてみたい。
副社長は、実際にどれくらいの期間を待ってくれるのだろう?
*
明菜はプロポーズを受けてくれたが、本当はもう少し社会人経験をしてからにしたいと思っているのではないかと、俺は薄々と感じていた。
しかし、両親はいつまでも結婚しない息子のことを心配しているようで、最近は母が頻繁に連絡をしてくる。
今日も仕事を終えて家に戻ってきたので明菜に連絡をしようと思っていたが、母からの長い電話に対応中だった。
『もうそろそろ結婚してよ。孫の顔が見られないで死んでしまうなんて、私そんなの悲しすぎるわ』
「母さん悲しまないでよ。大丈夫だから」
プロポーズに成功したという話をしたら、母はきっと喜ぶに違いない。
そしてすぐに会わせてくれという話になるだろう。
ただ、明菜はまだ若い。
数年間は結婚を待つ覚悟だ。
本当は今すぐにでも一緒に暮らして結婚したい気分だが――
東京本社に来て彼女の素敵な人柄を見たら、男性社員は放っておかないだろう。
その前に早くプロポーズをして、結婚する約束だけはしたかったのだ。
『もうお母さんは翔太の言葉に騙されないわよ』
「どういうこと?」
電話越しで母が何か企んでいることを感じ取った。嫌な予感しかしない。
『あなたにぴったりのお見合い相手を見つけたの』
「えー……そういうのは絶対に嫌だし興味ないって言ってたでしょ」
『興味ないじゃ困るんだってば。あなたは将来社長になるのよ。一生独身でいるつもり?』
いつものらりくらりと交わしていたけれど、今日の母はどうやら本気らしい。
相手がいるといえばきっと連れてこいと言われてしまう。
まいったな……。