電話越しで恋をした副社長から、突然プロポーズされました

頭の後ろに手を回し、髪の毛をいじりながら脳内で言い訳を考える。
『大手企業の社長令嬢さんなのよ。実際に会わせてもらったんだけど体はとても健康なようで、元気な赤ちゃんを産めそうな子だったわ。とてもいい子なんだけどちょっと内気なところがあって、今三十歳になったところなの。翔太と歳も近いし、一度会ってみてくれないかしら?』
すでに相手のお父さんに会っているというのはかなり危険だ。
このまま母が暴走し話が進められてしまっては後戻りできない。
何とかしなければ。
母の願いを叶えるためにもお見合い相手と一度会って、断るというのも一つの方法かもしれない。
しかし、お見合いをしたということを明菜が聞いたら、ショックで寝込んでしまう可能性がある。
大切な人を悲しませるわけにはいかない。
「母さん。本当に申し訳ないんだけど会うことはできないんだ」
『写真も見ていないのになんでそんなこと言えるのよ。相手のお嬢さんに失礼よ。絶対に気に入るから一度会ってみて』
ここまでしつこいと本当のことを言わなければ、もう逃してくれないのではないか。本当は明菜が東京で働いて数年経ってから紹介するつもりだったがやむを得ず伝えることにした。
「……付き合っている人がいて、プロポーズもしてOKもらってるんだ。だからさ……」
『………………』
一度も恋人を連れて行ったことがない息子の言葉を、母は頭の中で噛み砕いて理解しているようだった。
「おーい。母さん聞いてる?」
『私は夢を見ているのかしら。まさか。翔太が恋人がいるなんて……これは夢に違いないわ』
「夢じゃなくて現実なの」
『そんなの信じられないわよ。じゃあ連れてきてちょうだい。今週末、絶対に』
電話が切られてしまった。

   *

『ということで申し訳ないんだけど、今週の土曜日に明菜のご両親にご挨拶をさせてもらいたい。そしてその日の夜東京に飛んで、日曜日にランチをしながら俺の両親に会ってもらいたいんだ』
仕事を終えて自宅に戻りゆっくりしているところに翔太さんから電話がかかってきた。
そして急にご両親に会ってほしいと言われたので、私は言葉に詰まってしまったのだ。
あまりにも唐突だった。
頭の中で理解するのに時間がかかる。
それは今すぐにでも入籍したいという意味なのだろうか。
いつかはそういう日が来るとは覚悟していたけど……
『急にこんなことになって……驚いているよな。本当にごめん』
「いえ、ご挨拶はしたいと思っていたので嬉しいです」
家族になるには必要な工程だ。
それに大事な人を産んで育ててくれたご両親には会いたかった。
「翔太さんが恋人を連れて実家に戻られたことがないと聞いてびっくりしました」
『学生時代から親が社長だからと言って近づいてくる女性がいたり、ほとんど俺のことを知らないのに好きだと言ってきたり。だから恋愛とかには前向きになれなかったんだ。もしかしたら俺は一生、誰かのことを好きにならないかもしれない――と心配していたときに、明菜に出会えた』
私は彼の辛かった過去を初めて聞いた。
恋愛に対しては経験があって今まで過ごしてきたに違いないと勝手に決めつけていたのだ。
まだまだ彼が知らないことがたくさんある。
それにさらっと嬉しいことを言ってくれた。
私に対してそんな思いを抱いてくれていたと知り、翔太さんが私と一緒にいることで少しでも幸せだと思ってもらえる時間が多くなればいいなと心から思った。
電話を切り、母にメッセージを入れると、土曜日に自宅に行ってもいいとのことだったので翔太さんに連絡をした。
< 27 / 68 >

この作品をシェア

pagetop