電話越しで恋をした副社長から、突然プロポーズされました
それから数日後のことだった。
お手洗いをしてメイクを直していると、隣にいた女性たちが小さな声で話をした。
「え? まだまだ新人の子供って感じじゃない?」
「そういうのがタイプなんじゃないの」
私とは関係ない話かなと思って気にしていなかったが、チラチラと顔を見てくるのだ。あまりいい気分にはならなかった。
事務所に戻って私は仕事をしていた。
今月いっぱいこちらで働いて、また来月には北海道に戻って閉鎖関連の仕事をしてこなければならない。
それまでにまとめておくことがたくさんあった。
北海道からも電話がかかってきて、雑用がかなり多いのだ。
忙しい中でふとした瞬間に、先ほど噂されていたことを思い出す。もしかして私と副社長が交際していると噂になっているのかもしれない。
先日給湯室で下の名前で呼ばれているのを商品企画部の女性に聞かれてしまったのだ。
……どうしよう。
不安になっても仕方がないし、気にしないで毎日を過ごしていくしかない。
そう思っていたけれど、噂は尾びれや背びれをつけて一人歩きしていく。
また別の日には、エレベーターで待っているとどこかの部署で働いている二人組の女性に声をかけられた。
「湯元さんのお父様って社長とのお知り合いなんですか?」
「そんなこと全然ないですが……」
「その関係でここに入社できたって聞きましたよ」
「まさか。みなさんと同じように試験を受けて面接をして採用していただきました」
「それは失礼しました」
私の横を通り過ぎていく――
私はしばらくその場から動けなかった。
反論できないし、もし何か言い返してしまえばまた変な噂が立つ。
呼吸が苦しくなって誰かに助けを求めなかったけれど、こんなこと誰にも言えない。
副社長と結婚するというのは、様々な人から羨望や嫉妬の眼差しを向けられ続けることなのだ。
頭ではわかっていたけれどまだまだ自分の覚悟が足りなかったと反省する。
「はぁ――」
まずは気持ちを切り替えなければと大きく息を吐き、エレベーターのボタンをもう一度押した。