二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 ダグラスの口がぽかんと開いて、顎が床に落ちてしまいそうだった。可愛い。
 今までずっと惑わされっぱなしだったから、もう少し驚かせてみたい気持ちになって、笑みを深めた。

「足の怪我でバレエを諦めたあと、料理の道に進むことにしたんです。レッスンばかりであまり成績はよくなかったので……学歴が必要な仕事は難しくて。体重制限のために自分で調理することが多くて、好きだったので。栄養士並みの知識もありましたし」

 ダグラスはビール瓶を手にしたまま動かなかった。
 声にはならなかったけれど、彼の唇は例の『ジーザス』を無音でつぶやいていた。

「……ミシュランガイドで星がひとつあるレストランに勤めていたんですよ。見習いですけど。最初は給仕係として滑り込んで、なんとかキッチンに入れてもらったんです」
「ノア」
 ダグラスは頭を振りながら乃亜の名前をささやいた。「次はなんだ? 君の元カレは日本のエンペラーの息子だと言い出すんだろう?」
「違いますよ。そのレストランのシェフでした。だから振られると同時にクビになったんです。そんなわけで、コロラドの牧場に三十日間滞在することもできるんです」

 ダグラスはビール瓶をウッドデッキの床に置くと両手で顔を覆った。
 よく聞き取れない、乃亜にはちょっと理解の難しい英語のスラングを、ブツブツと手のひらに向かってつぶやいている。
 やっと手を離して顔を上げると、ダグラスはちょっと可笑しな顔で微笑んでいた。

「そのシェフを殺してやるべきなのか……感謝するべきなのか、わからなくなってきたよ、ノア」
 そう言って、ダグラスは残りのビールを一気に呑み干した。
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