二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

「いくらウィリアムの知り合いの娘だって、お互いの同意があれば別にかまわないだろう。修道女ってわけじゃないんだから」
 ──いや、乃亜は修道女みたいなものなんだよ。昨今、もしかしたら修道女よりも身持ちが堅いのかもしれない。
 と、喉から出かかった言葉を飲み込み、首を横に振る。
「帰れ」
「あーはいはい」
「今すぐ」
「ふたりとも、全部聞こえてるし、全部わかってますよ」

 ダグラスたちに背を向けたままの乃亜が、クスクスと鈴の音のような声で笑って指摘する。ダグラスは胃が腹の中でひっくり返るような衝撃を受けた。
 乃亜にすべてが聞こえていたことに驚いたわけではない。
 それを笑っていなしてしまえる彼女のしなやかさに──その人間性に──ダグラスの中のなにかが音を立てて崩れていく。
 それについて問題はいくつかあったが、そのひとつは、ネイト・モンゴメリーも同じような感想を抱いたらしいことだった。

「ノア、君のような女性はカウボーイの妻になるべきだよ。俺はどう?」
 ネイトは立ち上がりながら言った。
 脱いでいたカウボーイハットを手に取り胸元に当てると、その人好きのする端正な顔で乃亜に向かってウインクを寄こしてから玄関に向かう。
「ダグラス、きちんと送っていけよ」
 ネイトは念を押した。

 ──しないとでも(ライク・ヘル・)思ったのか(アイ・ウォント)、阿呆が。
 ここから徒歩一分の道程で広瀬乃亜が遭遇するかもしれない様々な危険を想像すると、それだけでキャビンに帰すのが嫌になる。フライパンくらいではすまないかもしれない。

「おやすみなさい」
 シンクから流れる水に手を濡らしたまま、乃亜は言った。
 ネイトに向かって。
 くそ、ビールはどこだ? 酔えばこの気の迷いは消えるのか? この……胸を焼かれるような焦燥は。
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