二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
乃亜による完璧なる厩舎の掃除と、美味なる牛肉のワイン煮込みがこのカウボーイに与えた影響を考えると、誇らしいような……空恐ろしいような。
「そんなに夕食が美味しかったんですか? 昨日は追い出されるかと思ったのに、すごい変わりようですね」
ダグラスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「俺がそんなことを言ったか? 君を追い出したいと?」
「この牧場を乗っ取るつもりなのかとか、春子おばあちゃんとわたしを許さないとか、いろいろ仰っていたでしょう」
なにか聞き取れない単語をうなったダグラスは、ジーンズのポケットに両手を突っ込んだ。
「あのとき俺は……驚いていた。それだけだ。君は予想もしていなかったときに夢にも見なかった形でここに現れたから──」
そして降参するように首を横に振る。
「どうかしていたんだ。君を傷つけたなら、すまなかった」
星が。
遠くの星が、なにかを祝福するように輝いている。
もしかしたらふたりの周りに降ってくるのではないかと思えるほどの光が、足がすくむほど広大な荒野を照らしている。
月は三日月だった。
これからゆっくりと満ちていく、細くて、柔らかい月の影。
「ミスター・マクブライト……」
乃亜がささやくと、ダグラスは小さく舌打ちをした。
「それをやめてくれないか」
「え」
「俺を『ミスター・マクブライト』と呼ぶことだ。この牧場にミスター・マクブライトはふたりいる。少なくともふたりいたし……近いうちにまた、帰ってきてくれることを願っている」
「じゃあ……?」
「ダグラス、だ」
ダグラスの声は夜の空気に溶け込んで乃亜の鼓膜をくすぐる。ひとの名前ひとつが、こんなふうに心拍を乱すなんて、信じられなかった。
「ダグラス」
その名を舌に乗せると、乃亜の中でなにかが変わった。
おそらく、永遠に。