きっと、夏のこと
私はこの日にかけていた。


初めての洋服のブランドを買ったし、マツパもした。ネイルもしてみた。すべてこの一瞬のために。


当日のその時まで、私はどきどきしっぱなしだった。




校門の前に約束の20分前について、そわそわする。


その時間も一瞬で過ぎていってしまった。





校門に向かって歩いてくる牧田さんの姿。


遠いのに、人がたくさんいるのに、すぐにわかった。




相変わらず何考えているのか読めなくて。

でも、今日が特別な1日でないことは伝わった。



ずっと距離が近くなって、牧田さんが私に気づく。


あって顔、今気づいたって顔、その後のやっほーみたいな顔。


全部見慣れていた。




「お疲れ様」


会った牧田さんは、前と何も変わっていなかった。


優しくて、余裕があって、私の一歩手前に立つ人。




「ちゃんと読んだ?」

「もちろんです」

「えらいね」


本を返すとき、指が一瞬だけ触れた。


それだけ。




それ以上でも、それ以下でもなかった。


「わざわざ来てくださってありがとうございます」

「仕事でたまたまこの近くだったから全然」


その言葉も、笑顔も、全部想像通りだった。


私がこの日のためにかけてきた、時間も手間もちょっとの努力も、牧田さんのたまたまには勝てない。


私は「特別」ではないけれど、

「その他大勢」よりは、ほんの少しだけ上。


それだけの場所。


もうその事実だけで十分な気がした。
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