凪渡くん、このままじゃ溶けてしまいます【完全版】
気持ちを落ち着かせてゆっくり振り向けば、スーツ姿の男性が立っている。

一目で凪渡くんのお父さんだとすぐに分かった。

面影も、雰囲気も、この状況も、全てがそうだと物語っている。


「白木 莉帆だな」


凪渡くんが言っていた通り、凪渡くんの行動は筒抜けで私の素性もバレているようだった。

「あの……」

凪渡くんのお父さんは当たり前のように私の言葉を遮った。






「凪渡と一緒にいる決意をしたのか?」






「え……」






そして、当たり前のように残酷なことを告げる。







「そんな決意、捨てれば良い。それぞれ身の丈にあった相手がいる」






「っ!」






言い返せない、そんな自分すら嫌になる。

そんな私に凪渡くんのお父さんは冷たい視線を向けた。







「君は、凪渡の当たり前に貰えた幸せを奪っている」







その言葉は、今まで一番ズンッと心に響いた。

ブワッと全身に鳥肌が立ち、喉の奥がきゅっと締め付けられる。




「まぁ、君が母方の実家に頭を下げて自分だけ家に戻るなら考えても良い。覚悟を決めるとはそういうことだ」




この人はそんなことを出来るはずがないことを分かって言っている。

それだけ言い切り、凪渡くんのお父さんは言い返しもしない私に「この程度か」と吐き捨てて去っていく。

私はしばらくただ呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

冷たい風が吹く廊下で、凪渡くんのお父さんが去っていくコツコツをいう足音だけを耳に残しながら立ち尽くしていた。
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