凪渡くん、このままじゃ溶けてしまいます【完全版】
凪渡くんのバイト先は食堂だった。

お洒落な食堂というより、どちらかというと地域の人に愛されているような家庭的な食堂。

正直言って、凪渡くんが選ぶバイト先としては意外だった。

私が食堂の(すみ)にある席に座ると、神坂さんが手作りの杏仁豆腐を持って来てくれる。

「ありがとうございます」

「いえいえ、のんびりして行ってね」

杏仁豆腐を一口食べれば、甘さ控えめで美味しくて、このお店がデザートまでしっかりと気持ちがこもっているのが伝わってきた。

にしても、本当に美味しいな……。

私が杏仁豆腐を味わいながら食べている間も、視線の奥では凪渡くんがテキパキと働いているのが見えている。

バイトしている間は高校でのキラキラな王子様ではなくて、本当に普通の高校生みたい。

「凪渡。こっちを一番テーブル、こっちを三番テーブルな」

「はい」

真面目に、真剣に、一目見れば王子様が遊び感覚でバイトしているわけでないことはすぐに分かったのに。

杏仁豆腐は普通に食べればすぐ食べ終わってしまうはずなのに、まだこの店にいる凪渡くんを見ていたくて、わざとゆっくりゆっくりと食べてしまう。

< 57 / 134 >

この作品をシェア

pagetop