人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う
「わたくしどもが看病をいたします」
現れたのは、正妃殿下と第二王妃殿下のお二人だった。
父とアグラヴェイン卿が素早く膝を折り、それに倣って私とモルドレッド殿下も頭を垂れた。
アーサー殿下も縛られたまま頭を垂れた。
「いざというときに戦うことはできませんが、負傷者の手当てと夫の安全確保はわたくしどもで責任を持ちましょう」
正妃殿下の凛と通る声に、背筋が伸びた。
ざわめいていた兵士たちも、その声に押されるように再び静まり返った。
妃殿下方に付き従っていた侍従たちが、素早く国王陛下を担架へ乗せ、玉座の間を後にしていく。
その間にも、第二王妃殿下は負傷者の手当てや運び出しについて、次々と指示を飛ばしていた。
「アーサー」
「……はい、母上」
「ばかねえ、あなたは」
正妃殿下の押し殺した声に、アーサー殿下が目を見開き、それから困ったように笑った。
「はい、僕はばかでした」
正妃殿下は、胸の奥に溜め込んでいたものを吐き出すように深く息を吐いた。
「地下で反省していらっしゃいな」
「はい、反省してきます。……母上がそう仰るのは十年ぶりでしょうか」
「何を言っているのよ」
アーサー殿下の言葉に、正妃殿下は扇で顔を隠した。
「十五年ぶりよ」
そうして正妃殿下は、カツカツと靴音を響かせながら国王陛下の後を追っていった。
私がモルドレッド殿下を見ると、殿下は苦笑して肩をすくめた。
「兄上と俺が子供のころにいたずらをすると、正妃殿下にああやって叱られてさ。地下牢の入口の倉庫で正座させられてたんだよ」
「まあ」
「『そこで何が悪かったのか、よくよくお考えなさい』ってね」
「殿下にも、そんな頃がありましたのねえ」
「昔から、そんなことばっかりだよ」
モルドレッド殿下は身をかがめ、縛られたままのアーサー殿下を立たせた。
「そうだなあ。お前とは昔っからバカなことしかしてない気がする」
アーサー殿下も、モルドレッド殿下とよく似た苦笑を浮かべた。
離宮の兵士へアーサー殿下の護送を頼み、私はモルドレッド殿下と並んで、その背中を静かに見送った。
「あー……疲れた」
アーサー殿下の背中が見えなくなった途端、モルドレッド殿下は玉座前の段差へ力が抜けたように座り込んだ。
「当然ですわ。殿下は訓練を積んでいても、実戦は初めてですもの」
「いや、君だって本来はそうなんだけど」
「私はヴォーティガン領にいたころから、模擬戦闘を何度も繰り返してきましたもの。鍛え方が違います」
「……俺の奥さんは頼もしいなあ」
「ふふ、当然です」
殿下は疲れ果てた顔で玉座の間を見回した。私もその隣へ腰を下ろし、階段の下を眺めた。
第二王妃殿下がその場に残り、駆けつけた衛生兵や侍女、侍従たちへ次々と指示を出していた。
とはいえ負傷の激しかった国王陛下の騎士たちや、アーサー殿下についていた衛兵たちは、ほとんど運び出されていた。
今残っているのは離宮の兵士たちで、どちらかといえば手当てより、ぼろぼろになってしまった玉座の間をどう修復するかという話になっているようだった。
「殿下、私たちも参りましょう。立てますか?」
私は腰をかがめて手を差し出した。すると、モルドレッド殿下は困ったような顔で私を見上げた。
「ごめん、無理」
「えっ」
次の瞬間、殿下はそのまま階段の下へ倒れ込むように崩れ落ちた。
現れたのは、正妃殿下と第二王妃殿下のお二人だった。
父とアグラヴェイン卿が素早く膝を折り、それに倣って私とモルドレッド殿下も頭を垂れた。
アーサー殿下も縛られたまま頭を垂れた。
「いざというときに戦うことはできませんが、負傷者の手当てと夫の安全確保はわたくしどもで責任を持ちましょう」
正妃殿下の凛と通る声に、背筋が伸びた。
ざわめいていた兵士たちも、その声に押されるように再び静まり返った。
妃殿下方に付き従っていた侍従たちが、素早く国王陛下を担架へ乗せ、玉座の間を後にしていく。
その間にも、第二王妃殿下は負傷者の手当てや運び出しについて、次々と指示を飛ばしていた。
「アーサー」
「……はい、母上」
「ばかねえ、あなたは」
正妃殿下の押し殺した声に、アーサー殿下が目を見開き、それから困ったように笑った。
「はい、僕はばかでした」
正妃殿下は、胸の奥に溜め込んでいたものを吐き出すように深く息を吐いた。
「地下で反省していらっしゃいな」
「はい、反省してきます。……母上がそう仰るのは十年ぶりでしょうか」
「何を言っているのよ」
アーサー殿下の言葉に、正妃殿下は扇で顔を隠した。
「十五年ぶりよ」
そうして正妃殿下は、カツカツと靴音を響かせながら国王陛下の後を追っていった。
私がモルドレッド殿下を見ると、殿下は苦笑して肩をすくめた。
「兄上と俺が子供のころにいたずらをすると、正妃殿下にああやって叱られてさ。地下牢の入口の倉庫で正座させられてたんだよ」
「まあ」
「『そこで何が悪かったのか、よくよくお考えなさい』ってね」
「殿下にも、そんな頃がありましたのねえ」
「昔から、そんなことばっかりだよ」
モルドレッド殿下は身をかがめ、縛られたままのアーサー殿下を立たせた。
「そうだなあ。お前とは昔っからバカなことしかしてない気がする」
アーサー殿下も、モルドレッド殿下とよく似た苦笑を浮かべた。
離宮の兵士へアーサー殿下の護送を頼み、私はモルドレッド殿下と並んで、その背中を静かに見送った。
「あー……疲れた」
アーサー殿下の背中が見えなくなった途端、モルドレッド殿下は玉座前の段差へ力が抜けたように座り込んだ。
「当然ですわ。殿下は訓練を積んでいても、実戦は初めてですもの」
「いや、君だって本来はそうなんだけど」
「私はヴォーティガン領にいたころから、模擬戦闘を何度も繰り返してきましたもの。鍛え方が違います」
「……俺の奥さんは頼もしいなあ」
「ふふ、当然です」
殿下は疲れ果てた顔で玉座の間を見回した。私もその隣へ腰を下ろし、階段の下を眺めた。
第二王妃殿下がその場に残り、駆けつけた衛生兵や侍女、侍従たちへ次々と指示を出していた。
とはいえ負傷の激しかった国王陛下の騎士たちや、アーサー殿下についていた衛兵たちは、ほとんど運び出されていた。
今残っているのは離宮の兵士たちで、どちらかといえば手当てより、ぼろぼろになってしまった玉座の間をどう修復するかという話になっているようだった。
「殿下、私たちも参りましょう。立てますか?」
私は腰をかがめて手を差し出した。すると、モルドレッド殿下は困ったような顔で私を見上げた。
「ごめん、無理」
「えっ」
次の瞬間、殿下はそのまま階段の下へ倒れ込むように崩れ落ちた。