策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 その日の夜、由衣から着信があった。

「婚活パーティーで美雨にしつこくしてた後藤って男だけど、あんまり良くない噂があるらしいんだ」

「良くない噂……?」

 自分が誘ったせいで私がストーカー被害に遭っていると気に病んだらいけないので、由衣には今夜の件は黙っている。

「うん。ほかの婚活パーティーで結婚詐欺まがいなことをしてるみたいで、出禁になってるって、婚活で知り合った人から聞いたの」

 結婚詐欺は犯罪だ。もし事実なら、父に早く知らせなくては。

 まずは上司の総務部長に報告すべきかもしれないが、彼が万がいち逮捕されるような事態となっては、福本建設の責任問題にも発展するかもしれない。

 被害者がいるのなら真摯に対応するべきだし、雇用主としてできることは最大限やらなければならない。

 こんなことならもっと前に、付きまといの件も自分で処理せず、きちんと上に相談するべきだった……。

 由衣から電話をもらった翌日。

 まずは総務部長に相談しようと決意していた。

 朝イチで出社するも、総務部長はあいにく重要な会議で時間が取れない。

 お昼の休憩時間になり、会議は終わったらしく、総務部フロアに戻って来たところを捕まえようと張り込んでいたときだった。

「貸したお金、今すぐ返してよ!」

 怒声が響き、声がした方角へと急ぐ。

 駆けつけると、憤怒にわなないた表情の女性が対面している相手は、後藤さんだった。

「ちょ、ちょっと落ち着いて。ていうか、どうしてここに……」

 後藤さんは焦りに満ちた態度で、落ち着かせるために女性の肩にそっと触れる。

「落ち着けるわけないでしょ! 結婚資金とか言って式場のお金出させておいて、連絡つかなくなるなんて詐欺じゃない!」

 しかし、その行為は逆効果だ。

 怒りを抑えきれない女性は後藤さんの手を払いのけ、涙ながらに叫んだ。

「違うよ、詐欺だなんて誤解だ!」

 後藤さんの弁解は続く。

「まったく、なんてこと言うんだ。きみが俺と結婚できると思って、ひとりで先走って式場を予約したのが悪いんだろ?」

「はあ? 予約なんてしてないでしょ! あんたが予約するって言うから信じてお金を渡したのに……!」

 女性の悔しそうな声に胸が痛む。

 昨夜由衣から電話で聞いた情報は正しかったようだ。

 実際に被害者がいるのならこの件は見過せないと、両手を強く握りしめたとき。

「あ、福本さん!」

 後藤さんに気づかれ、目が合う。

 私を見るやいなや、彼はそれまでの追い詰められた態度を一変させ、余裕っぽくほくそ笑みながらこちらに近づいてくる。

「俺、この子と結婚するんだ」

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