策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 政略結婚の申し出を正式に受諾したその日のうちに、城下さんは父にその旨を報告した。

 喜んだ父から、いち早く城下さんのご両親に挨拶に行くよう強く言われた。

 城下さんのお父様は城下財閥の現統帥ともいえるお立場。日本を代表する巨大企業グループのトップだ。

 貴重なお時間をいただける運びとなり、三月に入って最初の週末。

 私は今、城下さんが運転する高級外車でご実家に向かっている。

 日本屈指の高級住宅街を、黒いセダンが颯爽と走り抜ける。

 朝から極度の緊張で、おなかの調子がどうもおかしい。

 ご両親から身分不相応だと反対されるかもしれないという懸念が頭から離れない。

「そろそろ着くよ」

 シックなブラウンのワンピースの上からお腹を抑える私を、運転席の城下さんが横目で見る。

「大丈夫? 体調が悪いのでは」

「いえ、平気です!」

 シャキッと背筋を伸ばす。

 プライベートの城下さんに会うのは今日が初めてだった。

 これまで会ったどのシチュエーションでも、彼は上質な黒いスーツを着用していた。

 スタイルと容姿の良さも相まってモデル顔負けの着こなしで、それはそれは素敵だった。

 しかし今日は打って変わって、グレーのブルゾンに黒い細身のパンツスタイル。

 髪の毛のスタイリングはお仕事のときよりやや緩やかで、見慣れないオフの姿になんだか戸惑い、ギャップにドキドキしてしまう。

 そんなことを考えていたら、まもなく目の前に要塞さながらの塀に囲まれた真っ白な洋館が現れた。

 門扉が開き、広い敷地内に駐車した城下さんにエスコートされて車を降りる。

 深呼吸しながら足を進めた。

 まるで文化施設かなにかかと見間違えるほどの豪邸だった。

 玄関に近づくにつれ、心拍数がどんどん上がる。

 お屋敷で働いている使用人の方々に出迎えられて、強張る表情筋をなんとか緩めるだけで精一杯だった。

 もう一度息を深く吸い、広い玄関のたたきに通される。

 するとすぐに待ち構えていたご両親が出迎えてくれた。

「はじめまして。福本美雨と申します!」

 カチコチに固まった体でガバッと頭を下げる。

 声ばかりか足も震えたけれど、次の瞬間、極度の緊張は杞憂であったとわかった。

「はじめまして、雪成の母です。美雨さん、よくいらしてくれましたね。お待ちしておりましたよ」

 お母様は優しく微笑み、隣に立つお父様と目を合わせた。

 お若くて、シンプルなモノトーンの装いが上品。顔立ちは城下さんによく似ていた。

 歓迎していただけたことに肩の力が抜け、ホッと胸を撫で下ろす。


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