策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 城下邸の室内は、装飾は華美ではなく、クラシカルでモダンな造りだった。

 おそらく歴史的な価値があり、所々に置かれている調度品は値がつけられないほど高価なものであるに違いない。

 落ち着いた雰囲気の応接間に通されて、座り心地のいい椅子に腰を下ろした。

 外観も内部もお城のようで素敵だし、家具もすごくお洒落。

 使用人の方がいい香りのする紅茶を運んできてくれて、カップに口をつけたとき。

「お義母様がよく仰っていたんですよ、水沢旅館のこと」

 お母様が優しい笑顔をこちらに向けた。

「ありがとうございます。ご贔屓にしていただけて大変恐縮です」

「私たちも今回のこういった御縁があって、行ってみたのよね? あなた」

「え、行かれたのですか?」

 隣に座るお父様に目配せをするお母様を見て、驚いた城下さんが声を上げる。

「ええ、とってもいいお湯でした。お料理も大満足でしたよ」

 お母様は頬を綻ばせた。

 水沢旅館は、今は母の兄である叔父が継いでいる。

 お母様の言葉を聞いたら喜ぶだろうな。

 そう思うと胸が熱くなった。

「経営難で水沢温泉郷が衰退してしまうのは避けたいですね。町をあげて活性化されることを願ってます」

「ありがとうございます!」

 私は深々と頭を下げる。

 すると、お母様は首を左右に振った。

「お礼を言うのはこちらのほうです」

「え?」

「早く社会的信用を得るよういくら言っても結婚はまだいいの一点張りだったのに、美雨さんと出会ってすぐに身を固める決意をしてくれて。感謝しています」

 予想もしていなかった謝辞に、恐縮して体が石化する。

「い、いえ、そんな……」

「ああ、そうだな」

 震える声で発した私を、それまで黙って腕を組んでいたお父様が制した。

「美雨さん、生前母が世話になったね」

「とっ、とんでもないことでございます」

 あまりにも恐れ多くて、慌てて一礼する。

「母はカメラが趣味でね。普段風景ばかり撮っていて、水沢温泉郷の自然にも惹かれていた」

 そう、お祖母様はいつもカメラを持っていたし、撮った写真をよく見せてくれた。

「人物はあまり撮らないのだが、後からデータを見たら多かったのはあなたの写真なんだ。雪成の次に」

「わ、私ですか?」

 気の抜けた声が出た。

 かしこまって記念写真を撮ってもらった記憶はあまりない。

 おそらくお祖母様が、抜き打ちで幼い私を撮影していたのだろう。全然気が付かなかった。

「最初に雪成から再建の件を聞いたときは無謀だと思ったが、母の話を思い出し、実際に水沢温泉郷に赴いてみて、気が変わったんだ。今は、御縁に感謝しているよ」

 お父様の鷹揚な笑顔に、胸のすく思いだった。
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