策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 城下家への挨拶も無事に済み、いよいよ城下さんのマンションに引っ越す日がやってきた。

 城下さんが引っ越し業者を手配してくれていて、私も事前に荷造りを済ませている。

 初めて訪れる城下さんのマンションに到着したときには、すでに荷物の搬入は終わっていた。

 城下さんが現在ひとり暮らしをしているのは、都心からアクセスの良い閑静な住宅街にあるスタイリッシュな低層マンション。

 城下不動産所有で、住まいは最上階のフロアすべてに及ぶ。

 室内はスイートキングズホテルの最上階くらいの広さだろうか。

 内装はモノトーンでまとめられ、全体的にシンプルなデザイン、家具はセンスのいい高級ブランドで揃えられている。

 南向きの大きな窓からは陽光が降り注ぎ、木々が瑞々しい緑の葉を春風に揺らしていた。

 屋上には庭園があり、都会とは思えない豊かな自然を満喫できるらしい。

 落ち着いた雰囲気がすごく素敵で、季節の花も楽しめて過ごしやすそう。 

「できれば結婚式の前に入籍を済ませたい」

 不躾にもリビングの入り口で部屋中をキョロキョロと見渡していた私は、城下さんの言葉にビクッと肩を揺らした。

「は、はい。わかりました」

「これを、きみに」

 私の前まで歩み寄り、城下さんは紺色のベルベットの小さな箱を差し出す。

「え、あ。ありがとうございます」

 逡巡しながら受け取り、開けてみると、箱の中から眩い輝きが放たれた。

「わあ……」

 一体何カラットなのだろう。

 母が所有していた装飾品も高価な値がつくものも多く、宝石は見慣れてはいる。

 だけど今目の前にある指輪の真ん中には、信じられないくらい大粒のブリリアントカットのダイヤモンドが鎮座している。

 城下さんは息を呑む私の手をそっと取り、左手の薬指にその光の源をはめる。

 きれい……。ピッタリと収まった美しい輝きに、目が離せない。

「もし、戸惑いがないのであれば」

 一旦言葉を切り、顔色ひとつ変えず私を見つめる。

「今夜から、寝室を一緒にしたい」

「え!」

 唐突な寝室というフレーズに過剰反応してしまった。

 恥ずかしい……。

 顔に集中する熱が早く冷めるよう願いながら、呼吸を整える。

 この結婚は、お互いの利害が一致したから交わされた契約だ。

 どのような経緯があるにしろ、立場上、城下財閥が途切れないよう守るためにも子孫繁栄は至極当然。

「はいっ、問題ありません!」

 平静を装うつもりが裏目に出て、声が裏返ったしやたら威勢のいい返事になる。

 城下さんはそんな私を見て片眉に少し角度をつけると、クッと堪えるように笑った。
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