策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 同居初日の夜。

 ソワソワして寝室に入り覚悟を決めたが、結局キングサイズのベッドでひとり寝落ちした。

 私がシャワーを使わせてもらうと同時に、城下さんは少し仕事をすると言い寝室の隣にある書斎に入った。

 先に横になり、はじめは落ち着かなかったけれど、あまりにも寝心地が良くてそのまま朝まで寝てしまった。

 目が覚めると、隣に城下さんの姿はない。

 私よりも遅く寝て、早く起床したようだ。

 朝の爽やかな光に包まれたリビングでは、城下さんがソファに腰掛けコーヒーカップ片手にタブレットを眺めている。

「おはようございます」

 私の声に、城下さんはパッと顔を上げた。

 白のワイシャツにモノトーンストライプのネクタイ、細身の黒いスラックス。

 朝からとんでもなく美麗で優雅な出で立ちに、つい見惚れてしまう。

「おはよう。よく眠れた?」

「はい」

「それは良かった」

 城下さんはニッと笑うと、コーヒーカップとタブレットをテーブルの上に置き、ソファから立ち上がる。

「帰宅は遅くなる。先に休んでて」

「え、でも……」

 スーツのジャケットを羽織る姿を見て、感づいた。

 ひょっとして、毎日こんな感じなのだろうか。

 結婚して同居しても、あまり会う時間はない……?

 そう察した私は、こちらに歩み寄った城下さんを真っ直ぐに見つめた。

「新鮮だな。きみが家で待っていてくれると思うと、仕事がはかどりそうだよ」

 城下さんは片目を細め、僅かに口角を上げた。

 それに対して、私はただぽかんと口を開ける。

「え?」

 今の言い方だと、まるで私がここにいるのがうれしいと思ってくれているように感じる。

 からかわれているのか、気を遣っているのか真意が読めず、どう返していいかわからない。

 すると城下さんは前かがみになり、私と顔面を接近させた。

「今夜もきみのかわいい寝顔を見るのを楽しみにしてる」

 これは……からかわれている!

「起きて待ってますね!」

 返す刀で即座に言うと、城下さんは耳もとで唇が触れるギリギリの距離でフッと笑う。

「いってきます」

 妙な色気の余韻を残し、玄関から出て行った。

「い、いってらっしゃいませ……」

 去り際の華麗さに、私は途方に暮れる声でひとりごちる。

 これから毎朝見送るたびにこうも心拍数を上げられたら身がもたない。

 困惑と動揺で胸を押さえ、広いリビングで立ち尽くした。

< 25 / 63 >

この作品をシェア

pagetop