策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
福本建設は先月末で退社した。
後藤さんの件で社内を騒がせてしまったし、城下さんとの結婚も公となり、これまで通り社員とともに働くのが難しくなったためだ。
出来る限り父をそばで支えたい私としては心残りだけれど、社員たちの業務に差し支えがあればいけないので仕方がなかった。
日中なにをしよう……。
城下さんのマンションには清掃のハウスキーパーの方が週に何度か入ってくれる。
多忙ゆえ家で食事をする機会がないのか、冷蔵庫は飲料水ばかりだった。
私はスーパーに買い物に行き、自分の三食分の食材を購入し、自炊することにした。
あとは寝室などプライベートな空間の掃除をして日々を過ごす。
そんな調子で同居開始から一週間が過ぎた。
無事に入籍を済ませ、私は城下美雨になった。
城下さんとの生活は予想通り、すれ違いの日々だ。
顔を合わせる時間は極端に少なく、朝のたった数分のみ。
日中の私は屋上の庭園で、草木の手入れをするのが日課になっていた。
四季折々の植物が日差しを浴び、生き生きと風を受ける様子は、見ていて安心するし清々しい。
その光景は水沢旅館の庭を彷彿とさせ、居心地がよくてつい入り浸ってしまう。
そんなある日、由衣から着信があった。
「美雨、結婚おめでとう!」
親友の由衣には、結婚の成り行きを打ち明けていた。
「ありがとう。なんだか全然、実感がわかないんだけどね」
「旦那様、お忙しいんだね」
「うん……」
城下不動産を牽引する旧城下財閥の後継者として申し分ないどころか、如才のない手腕で有望な経営者だと経済誌で評価されていた。
仕事に忙殺されていても仕方がないのかもしれない。
でも、同居する家族としては健康を害する働き方は看過できない。
家で見る限り、多忙な城下さんは食事や睡眠を疎かにしていた。
目を通す必要がある書類はいつも膨大だし、海外とのオンライン会議は時差の関係で深夜にも及ぶ。
リビングで見かけるときは大抵外国語の資料を熱心に読み込んでいて、心も体も休める時間が皆無と思われる生活。
リラックスする時間はあるのかな。
いつか無理がたたって倒れたりしないだろうか。
「うーん。それは体調が心配だね」
電話口から、由衣の深刻な声が聞こえた。
「やっぱりそうだよね。ほんとにいつ寝てるんだろうって感じで」
「そうね。さすがに仕事は手伝えないけど、美雨は旦那さんのためにできることをやってみたらいいんじゃない?」
「私にできること?」
「うん、手料理は得意じゃない!」
由衣の弾んだ声が携帯越しに聞こえる。
たしかに、料理は好きだ。
母が亡くなってからは、作ってくれた味を忘れたくなくて研究に没頭した。
母が得意だったメニューがうまく作れると父も喜ぶし、私もまた母に会えたみたいでうれしくて、夢中になった。
だから誰かのために作るのは全然苦ではない。
後藤さんの件で社内を騒がせてしまったし、城下さんとの結婚も公となり、これまで通り社員とともに働くのが難しくなったためだ。
出来る限り父をそばで支えたい私としては心残りだけれど、社員たちの業務に差し支えがあればいけないので仕方がなかった。
日中なにをしよう……。
城下さんのマンションには清掃のハウスキーパーの方が週に何度か入ってくれる。
多忙ゆえ家で食事をする機会がないのか、冷蔵庫は飲料水ばかりだった。
私はスーパーに買い物に行き、自分の三食分の食材を購入し、自炊することにした。
あとは寝室などプライベートな空間の掃除をして日々を過ごす。
そんな調子で同居開始から一週間が過ぎた。
無事に入籍を済ませ、私は城下美雨になった。
城下さんとの生活は予想通り、すれ違いの日々だ。
顔を合わせる時間は極端に少なく、朝のたった数分のみ。
日中の私は屋上の庭園で、草木の手入れをするのが日課になっていた。
四季折々の植物が日差しを浴び、生き生きと風を受ける様子は、見ていて安心するし清々しい。
その光景は水沢旅館の庭を彷彿とさせ、居心地がよくてつい入り浸ってしまう。
そんなある日、由衣から着信があった。
「美雨、結婚おめでとう!」
親友の由衣には、結婚の成り行きを打ち明けていた。
「ありがとう。なんだか全然、実感がわかないんだけどね」
「旦那様、お忙しいんだね」
「うん……」
城下不動産を牽引する旧城下財閥の後継者として申し分ないどころか、如才のない手腕で有望な経営者だと経済誌で評価されていた。
仕事に忙殺されていても仕方がないのかもしれない。
でも、同居する家族としては健康を害する働き方は看過できない。
家で見る限り、多忙な城下さんは食事や睡眠を疎かにしていた。
目を通す必要がある書類はいつも膨大だし、海外とのオンライン会議は時差の関係で深夜にも及ぶ。
リビングで見かけるときは大抵外国語の資料を熱心に読み込んでいて、心も体も休める時間が皆無と思われる生活。
リラックスする時間はあるのかな。
いつか無理がたたって倒れたりしないだろうか。
「うーん。それは体調が心配だね」
電話口から、由衣の深刻な声が聞こえた。
「やっぱりそうだよね。ほんとにいつ寝てるんだろうって感じで」
「そうね。さすがに仕事は手伝えないけど、美雨は旦那さんのためにできることをやってみたらいいんじゃない?」
「私にできること?」
「うん、手料理は得意じゃない!」
由衣の弾んだ声が携帯越しに聞こえる。
たしかに、料理は好きだ。
母が亡くなってからは、作ってくれた味を忘れたくなくて研究に没頭した。
母が得意だったメニューがうまく作れると父も喜ぶし、私もまた母に会えたみたいでうれしくて、夢中になった。
だから誰かのために作るのは全然苦ではない。