策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 できれば日課にして、一日のうち一食でも家で食べる習慣をつけてほしい。

「でも、どんな料理が好きなのか、一緒に食事をする機会がないから全然わからなくて」

「だったら美雨が好きなものでいいんじゃない?」

 由衣がなんの躊躇いもなく、あっけらかんと言う。

「私が好きなものって、田舎料理だよ? 母の実家の」

「それでいいじゃん! 私なら作ってもらえるだけでうれしいし、相手の好きなものも知れて更にすっごくうれしいけどな」

 素直な意見に、モヤモヤしていた心が晴れてゆく。

「そっか、そうだよね。ありがとう、由衣」

 手料理を振る舞うのは緊張するけれど、そうも言っていられない。

 結婚したからには、城下さんの健康を守りたい。

 と、意気込んだものの、国内や海外への出張もあり多忙さに拍車が掛かり、城下さんの休みが取れたのは同居して一ヶ月が経った頃だった。

「いただきます」

 城下さんは箸を持つと私の手料理を前に両手を合わせた。

 夕食のメニューは金目鯛の煮付けに芋煮汁、根菜のサラダ。

「うん、すごく美味しい」

 ひと口目を食しての感想に、私はホッとして胸を撫で下ろす。 

「本当ですか?」

「ああ、それに懐かしい味だ。祖母と過ごした時間を思い出すよ」

 今日作ったのは、昔よく水沢旅館で出されていたメニューだった。

 城下さんは白米をお代わりしてどんどん食べてくれるから、対面に座る私もつられて箸が進む。

 水沢旅館の味、覚えててくれたんだ。

 共有する思い出があるのがうれしくて、心が温かくなる。

 なんだか胸がいっぱいで泣きそうだった。

「手伝うよ」

 食後に食器を洗っていると、城下さんが隣に立ちシャツをたくし上げた。

「大丈夫ですよ。城下さんは座っててください」

 笑顔を向けると彼は一瞬静止して、それからニッと頬を緩めた。

「夕食のお礼に、少しでいいから手伝わせてほしいんだ」

「えっと、では……。ありがとうございます」

「こちらこそ」

 お言葉に甘え、洗い終えたお皿を手渡すと、城下さんは満足げに受け取って布巾で拭く。
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