策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 雪成さんが硬い表情のままなので、そう推察する。

 すると、ふうっと長めに息を吐き、雪成さんはやや怪訝そうに口を開いた。

「妬けるな」

「……へ?」

 私はキョトンと見つめ返す。

「俺には夢中になってくれないんだな。もっと、がんばらないと」

 少しふてくされた言い方に焦りが募った。

「いや、そういう意味ではなくて!」

 必死で弁解すると、雪成さんは表情を崩し、私の手を握った。

「ランチはルームサービスでいいかな。疲れただろう?」

「あ、ええと」

 朝食はプライベートジェットで美味しいサンドイッチをいただいた。

 だからお腹はまだ全然空いてないし、初めてのプライベートジェットで興奮して全然眠れなかったので、少し休みたい。

「雪成さんはどうされますか?」

 聞き返した矢先。

 秘書の方が部屋にやって来て、なにやら仕事のやり取りが繰り広げられる。

 おそらく明後日のパーティーに向け、確認しておきたい事項が次々と出てくるのだろう。

「お忙しければ私のことは気にせず、お仕事に集中してくださいね」

 秘書の方が部屋を後にしてから、雪成さんにそう伝えた。

 リゾート気分で舞い上がってたけれど、今回の目的は着工パーティーの成功だ。

 注目度が高いし、最終的な準備に追われているのもわかる。

「ダメだよ」

 それなのに雪成さんは、低い声で言うと私の手を強く握りしめた。

「きみが言ったんだろ? また食事しましょう、できればこれからずっと、毎日って」

 聞き覚えのある台詞に瞠目する。

 だってそれは、寝ているはずの雪成さんの濡れた髪の毛をタオルで拭きながらひとりごちた言葉だ。

「あのとき、起きて……?」

 雪成さんはうなずく代わりに口端をつり上げた。

「ね、寝たフリなんてひどいですっ! どうしてそんな」

 聞こえていないとわかっていて気持ちを伝えたのが、今になって羞恥を掻き立てる。

 雪成さんは意味有りげに片目だけを器用に細めた。

「どうして、って。美雨がかわいいことを言うから、あのあと起きたらいろいろと歯止めが効かなくなりそうだったんだ」

「歯止め?」

「いや、こっちの話だよ」

 私が首を傾げると、雪成さんは澄ました顔で微笑む。

 交わされたけど気になるし、まだ恥ずかしくて頬が紅潮している。

「ただ、どうしても今は外せない案件があるんだ。悪いが食事をともにするのはディナーでもいいかな」

「もちろんです。荷解きしながらお仕事が終わるのを待ってますね」

 言いながら微笑む私に、雪成さんが穏やかにうなずいた。
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