策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 窓の外の絶景を楽しみながら体を休め、のんびり過ごしていると、雪成さんが部屋に戻ってきた。

 一緒に二十階にある人気の多国籍料理のレストランに移動し、新鮮な魚料理やロブスター、焼き野菜などを美味しくいただいた。

 地元の料理もシーフードもどれも絶品で、プライベートジェットでもコース料理をいただいたのに贅沢にも食べ尽くす勢いだ。

「明日も少し時間が取れそうだから、ビーチを散策しよう」

「はい、楽しみです」

 笑顔で答えたものの、きっと無理して時間を作ってくれたのだろうなと思った。

 本当に少しだけプライベートビーチを散策して、あとは部屋で過ごそう。

 そのほうがお仕事に差し支えないだろう。

 レストランで食事を終え部屋に戻る。

 すぐに秘書に呼び出され、打ち合わせのため出て行った雪成さんは、私が眠りにつく頃まで戻って来なかった。

 翌朝、ルームサービスで朝食をとると、雪成さんは再びパーティーの最終確認に出向く。

 私は朝から部屋でゆっくり過ごし、午後はホテル内の売店などを見て回った。

 お土産はクッキーやコナコーヒーが人気らしい。

 由衣に買って帰ろうかなと考えていたとき、突然ブラウスの袖をちょんちょんと引っ張られた。

 振り返ると、三、四歳の小さな男の子が瞳を潤ませて立っている。

「ママが、いなくなっちゃったの」

 不安そうにつぶやき、私が身をかがめるとシクシクと泣き出した。

 迷子かな。日本語だ。

「大丈夫だよ、お姉ちゃんが一緒に探してあげるね」

 なんとか安心してもらおうと、目線の高さを合わせて笑顔を向ける。

 男の子が涙で濡れる目を擦るので、ショルダーバッグからハンカチを取り出して持たせてあげた。

 手を繋いで歩き、すぐに近くにいたスタッフに事情を伝える。

 すると、お母様もはぐれた子どもを心配して探し回っていたようで、ほどなくして現れた。

 ホテル内ではぐれたのならきっと大事にはならないと思ったけれど、抱擁し涙するふたりを見て心からホッとした。

「もしよろしければ、お部屋までお送りいたしますよ」

 スタッフが申し出る。

「いえ、大丈夫です。本当にどうもありがとうございました!」

 母親からしきりに感謝され、私は恐縮した。

「おねえちゃん、ありがとう!」

 男の子からもお礼を言われ、笑顔で見送る。

 胸を撫で下ろして部屋に戻った頃、ちょうど雪成さんが仕事を終えて帰って来た。

「遅くなって悪い」

「いえいえ、お仕事お疲れ様です」

「昨日の約束、まだ有効?」

「もちろんです!」

 うれしさが隠せなくて、声が上ずった。
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