策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
「そうだよ、ほら」

 雪成さんが私の左手を掴み、彼女に見せる。

 煌めくエンゲージリングを見て、マリカさんは一瞬言葉を失ったのか押し黙ったが、すぐに顔つきを明るくさせた。

「知らなくてごめんなさい。おめでとうございます、雪成、美雨さん」

「あ、ありがとうございます……」

 私はぎこちなく頭を下げた。

「それじゃ、私は失礼しますね」

 同性でも見惚れるくらい華やかでキュートな笑顔を残し、マリカさんは颯爽と去っていく。

 するとすぐに会場内の招待客から話しかけられ、感じよく応じていた。

「彼女とは父同士が友人で、昔から家族ぐるみの付き合いなんだ」

「そうなのですね」

 それってつまり、幼なじみだよね。

 雪成さんとマリカさんからは、親密そうな雰囲気を感じた。

 あの気の置けない空気は、信頼関係がないと成り立たない。

 それは、幼なじみだから?それとも、もっと深い関係だからとか……。

「美雨?」

 勝手に頭の中でふたりの関係を詮索していた私は、雪成さんに呼ばれてハッとした。

「あ、ええと、マリカさんはとてもおきれいな方ですね。あまりにお美しいのでびっくりしました」

「ああ、世界で活躍しているモデルだからな」

 こともなげに言われ、私は一瞬閉口した。

「その、知らなくて……すみません」

 肩を落とし、ペコリと頭を下げる。

「そんな、別に俺に謝らなくても」

 深刻な私に対し、苦笑した雪成さんによると、マリカさんは国際的に活躍しているモデルで今はパリに拠点を置いているそうだ。

 有名ブランドのファッションショーによく出演していて、日本のメディアにはあまり出ていないから知らなくても当然だとフォローされた。

 パーティーは主賓の挨拶の時間となり、雪成さんがスピーチのため壇上に立つ。

 知的で優雅、さらに華やかで凛々しい彼に、会場中が釘付けとなった。

 その後はマスコミ対応と、プレス用の撮影が始まり、有名人のマリカさんも雪成さんとともに撮影に応じる。

 並外れた美貌同士だから、ツーショットには迫力があった。

 私の周りにいる招待客たちも、ため息を吐きながら撮影を見守った。

 脚光を浴びるふたりに気後れしてしまい、私は出入口の付近まで下がってその光景を見つめる。

「モデルの本庄マリカさんがアンバサダーを務めるそうだよ」

 周囲にいる招待客から、そんな噂話が耳に届いた。

 そうか、マリカさんは新しくオープンする施設を宣伝してくれる役割なんだ。私はなにも知らなかった……。
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