策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
「本当にいつ見ても素敵よね、マリカさん」

「ええ。あのおふたり、結ばれなかったのねぇ。恋人同士だって噂はよく耳にしたけど、雪成さんがほかの女性と結婚するなんて未だに信じられないわ」

 前方にいる招待客の女性たちは、おそらく妻である私がうしろにいると気づいていない。

 コソコソと耳打ちし合う声は鮮明に聞こえた。

「ねぇ、びっくりしたわよね。なにか事情でもあるんじゃないかしら?」

「旧城下財閥は名家ですもの。きっと結婚にも政治的な影響かなにかがあったのよ」

「私もそう思うわ。おふたりのことは幼い頃から存じ上げてるけど、とっても仲睦まじくて家同士も良好な関係だったもの」

「叶わぬ恋なんて、可哀想ねぇ……」

 麗しいふたりが並ぶ姿は、遠目に見てもお似合いだった。

 私は誰にも気づかれぬよう静かにその場を立ち去ると、会場を出て廊下を足早に歩いた。

 歩調に比例して鼓動が速くなる。

 やはりふたりはただの幼なじみではなくて、特別な関係だったのだ。

 超ハイスペック同士お似合いなのにどうしてふたりは結ばれなかったのだろう……。

 宛もなく廊下を歩いて行くと、テラスに出られるドアがあった。

 その前で足を止め、ガラス製のドアを開けると、熱風が体中を包み込む。

 今日の外気温は三十度を超えていそうな熱気だった。

 外に出ると、冷房の効いたホテル内との温度差にくらりと目眩がする。

 招待客の数人がテラス席でワインや景色を楽しんでいた。

 私も空いている椅子に座って心を整理しよう。

 そう思ってパラソルの下の四人掛けの席へと向かっていた途中、給仕係の女性がいきなり目の前で倒れた。

 持っていたトレイに乗せられていたグラスは割れ、ガシャンと大きな音が響く。

「大丈夫ですか!?」

 すぐさま彼女に駆け寄る。

 倒れる直前ふらついていたから、熱中症かもしれない。

 すぐにほかの給仕係のスタッフと協力して、彼女をホテル内に移動させた。

 過去の記憶が頭をよぎり、動悸が激しくなる。

 母も熱中症で倒れたことがあった。救急車で病院に運ばれた。
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