策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
「自分でもこれほど狭量だったのかって、呆れてるよ」

 雪成さんは辟易としながらも、どこかうれしそうだ。

 不本意だけれど満更でもないといったふうな、まるで恋人同士の甘い会話に呆然とする。

 ふたりはまだ思い合っているのだろうか……。

 実際に会話を聞いたのだから疑う余地もなかった。

 私との結婚はリゾート開発の技術提供と、水沢旅館への恩返しのためで、本当は心に決めた女性がいるんだ。

 パーティーを終え、余韻に浸る暇もなく、私たちはコナ空港へと移動した。

 プライベートジェットで日本へと戻る。

 帰りは偏西風の影響もあり、来たときより一時間ほど長くかかるので、過ごしやすいようホテルでドレスから普段着に着替えてきた。

 エンゲージリングを外すのを忘れていたので、機内で紺色のケースに仕舞った。

「どうして外すんだ? つけておけばいいのに」

 隣の席で英字の新聞を読みふけっていた雪成さんが、真横の私をチラリと見る。

「でも、失くしたら大変ですし」

「そうしたらまた買うよ」

 造作なく言い返され、一瞬逡巡するも、私は首を左右に振った。

「いえ。雪成さんからいただいたこちらを、大切にしたいので……」

 失くしたら新しいものを買うなんて、なんだか今は代わりなんていくらでもいると言われているような気がして、悲しかった。

「帰国したら、マリッジリングを買おう」

 私の心情などおそらく知る由もなく、雪成さんはニッと口角を上げてスマートに微笑んだ。

 それでも私は、心からうれしい気持ちにはなれなかった。

 帰国後も雪成さんは出張が多く、ハワイ島のほかにフロリダやタヒチなど、世界中のリゾートを飛び回っている。

 一週間後、由衣から電話があった。

 ハワイのお土産を渡したくて、私も連絡しようと思っていた矢先だった。

「美雨のご主人の名前って、城下雪成さんだよね?」

 繋がった瞬間に確認され、嫌な予感が心をよぎる。

「うん、そうだけど」

「やっぱり……」

 おかしいな、と由衣が電話の向こうで神妙につぶやく。

「由衣、どうかした?」

「最近ハワイ島で盛大なパーティーがあったよね? 城下不動産の新しいホテルの」

「うん、あったよ。私も行ったから由衣にお土産を渡したくて」

「え、美雨も行ってたの?」
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