策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 由衣の声が明らかに強張っているので、私は警戒し、スマホを持つ手に力を入れた。

「なんかね、その着工パーティーの盛大な様子がニュースサイトで特集を組まれてるんだけど、」

 そこで言葉を切り、息を整える音がスマホ越し
に聞こえたような気がして戸惑う。

「そこで紹介されてる雪成さんの奥様の写真が、美雨じゃないんだよね。本庄マリカさんっていうモデルさんになってて」

「マリカさん?」

「うん。これって大間違いだよね。間違った情報がこうして全世界に配信されるなんて」

「うん……」

 私は由衣にパーティーでの出来事をかいつまんで説明した。

 近いうちに会って話す約束をして電話を切った。

 ニュースサイトを確認すると、たしかにプレス用に撮影されていたアンバサダーのマリカさんと雪成さんとのツーショットが、どの記事でも多用されている。

 これまでメディアにあまり顔出ししていないせいか、コメントを付けられるニュースでは雪成さんの美貌を褒めるものが多かった。

 マリカさんとお似合いだ、とも。

 数日も経たず、当該記事は削除された。誤った情報だと、どこからか苦情がいったのかもしれない。

 けれども、私の心には霧さながらの晴れない感情が残ったままだった。

 雪成さんが海外出張から帰宅すると、手料理を振る舞い、身体を労り休めてもらう。

 それくらいしかできない。私が彼のためにできる唯一のこと。

「美雨?」

 向かい合っての食事中、よく会話が途切れた。

「は、はい?」

「なんだか元気がないようだな。体調はどう? 大丈夫?」

 その理由は、私が心ここにあらずでボーッとしているから。雪成さんに心配をかけているだろう。

「はい、大丈夫です」

 心ばかり微笑むと、すぐに目をそらした。

 今のは冷たくて不自然だったかも……。

 最近雪成さんに対してよそよそしい態度をとってしまう。

 そのせいか、ハワイ島での初めての夜以来、体を重ねることはなかった。

 それに、帰国してしばらく経ってから体が怠く、微熱が続いていた。

 私が体調不良なのを察して、雪成さんがたぶん気遣ってくれている。
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