策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 ハワイ島でも距離を縮めたくて、もちろん騙すつもりはないが試行錯誤したのはたしかだ。

 美雨のコロコロ変わる表情はどれも一瞬たりとも見逃したくなかった。

 珍しく怒った顔もとても魅力的で、誰にも見せたくない。俺だけのものにしたい。

 顔が赤い俺を体調が悪いと勘違いし、心配してくれた彼女に、正直に謝罪した。きみに触れたかったのだと。

 まあほんの少し、演技がかっていたのは否めないので、騙したと怒られると予想した。

 だが、彼女はフッと頬を弛緩させ緩やかに微笑んだ。

『では、体調は大丈夫なんですね。安心しました』

 想像もしていなかった台詞に俺は耳を疑った。

 安心って……。どこまでお人好しなのだろう。

『雪成さんがお辛い思いをしてないのなら良かったです。体調を崩して明日の大事なパーティーに差し支えてはいけないですから』

 損得無しに、美雨は本心から言っているとわかる。

 うれしそうな面立ちが子どもの頃とまるで一緒だからだ。

 透き通るほど美しい彼女に、心が洗われる。

『でも、雪成さんになら騙されてもいいですよ? 信頼してますから』

 こんなに純粋で心根の優しい彼女が誰かに騙されでもしたら、たまったもんじゃない。

 人のことを言えないが、彼女が傷つくなんて絶対に許せないし、そんな事態が起きたら平常でいられる自信がない。

 それほど美雨しか目に入らず、なによりも大切な存在になっていた。

『雪成さんはいつもそうやってからかいますけど、私はどうしていいかわかりません……』

 そう告げられたときにはもう、自分を制御できなかった。

 無理だ。ここまで心を許されて、愛するのを我慢するだなんて。

 けれども拒絶されたら悲しいし、無理強いはしたくない。

 うつむいて唇を噛む美雨の顔を覗き込んだ。

 ああ、理性がいくらあっても足りたい。

 だらしなく顔がニヤけ、頬が溶けそうになっていくのが自分でもわかる。

『ほら、またそうやって』

 美雨が顔をそむけ、体を捻って離れようとするので、腕をギュッと掴んだ。

 からかってなんかいない。最初からずっと本気だ。

 でも表情を変化させるのが、きみの心を動かしているのが俺だなんて、うれしすぎてどうにかなりそうだ。

 自分の感情にコントロールが必要なほど高揚するのは初めてで往生する。

 それでも、自分より他人を大切にする思いやりのある美雨に胸を打たれた。

 子どもの頃の彼女と重ね、見返りを求めずに人助けをしたり天真爛漫に笑う姿を見て、好きになる気持ちを抑えられなかったんだ。
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