策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 その日は秘書も目をむくほど仕事を早く片付け、午後から美雨との待ち合わせ場であるスイートキングズホテル東京のラウンジへ急いだ。

 本来なら迎えに行きたかったが、気分転換のために少し歩きたいと美雨から言われ、致し方なくこのような運びとなった。

 十三時。時間通りにラウンジで会い、エレベーターでバンケットルームへと向かう。

「社長、お待ちしておりました」

 ブライダルサロンに通され、複数の精鋭スタッフたちに迎えられた。

「今日からこのプロジェクトに関しては、俺は社長ではなくひとりの新郎として対応してくれ」

 待機していたスタッフたちに妻の美雨を紹介する。

「妻の美雨です。よろしくお願いいたします」

 俺の隣に立つ美雨が、やや震える声でスタッフたちに一礼した。

「そんなに固くならなくて大丈夫だ。ここにいるスタッフたちは数々のVIPを迎えた優秀な方たちだから。俺たちの結婚式も任せよう」

 緊張している彼女を安心させたくて、手をギュッと握り、もう一方の手を背中に添える。

 本当なら心もとなくて強く抱きしめたいところだが、抱き寄せる程度で我慢した。

「美雨の希望を話してくれ。それが一番重要だからね」

「わ、私の希望なんて……」

「今後の打ち合わせも妻の希望を最優先にしてほしい」

 スタッフたちがうなずいた。

 招待客や式の進行は、専門のスタッフが着手する手はずとなっている。

 今日は美雨に会場の雰囲気を紹介し、ドレスや髪型の意向を聞くところまでを想定していた。

「すごい……。こんなにたくさんあるのですね」

 国内でも随一の在庫を誇るドレスルームに移動すると、美雨の表情がそれまでよりパッと明るくなった。

 安堵すると同時に、瞳を輝かせ、一着一着丁寧に見て歩く彼女がすごくいとおしく感じる。

「気に入ったものがあれば言ってくれ。試着してみてほしい」

 色白で可憐な美雨が着用すれば、全部似合うに決まっている。

 世界一美しい花嫁であるに違いない。

「ええと、ごめんなさい。どれも素敵すぎて選ぶのに時間がかかりそうです」

 俺が胸を高鳴らせていると、美雨が申し訳なさそうに微笑んだ。

「こういったマーメイドラインも、優雅で上品な奥様には大変お似合いになるかと思いますよ」

 スタイリストの女性スタッフがすかさず近くにあった一着を手に取り紹介する。

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