策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
6 晴れて初恋は成就する
 妊娠がわかってから一週間が経った。

 秋に予定されている結婚式の打ち合わせのため、午後からスイートキングズホテル東京のバンケットルームに向かった。

 雪成さんが送り迎えをすると言ってくれたけれど、忙しいところ申し訳ないので断った。

 マリカさんとのことや、妊娠の件は未だに話せていない。

 お互いに少しぎこちない雰囲気があり、それと空腹時の吐き気や怠さといったつわりの症状も重なって、気が重く憂鬱だった。

 雪成さんとの待ち合わせは、十三時にラウンジ。

 ともにエレベーターでバンケットルームへと向かうと、ブライダルサロンで数人のスタッフの方に出迎えられた。

「社長、お待ちしておりました」

「今日からこのプロジェクトに関しては、俺は社長ではなくひとりの新郎として対応してくれ」

 プランナーの女性スタッフたちを雪成さんに紹介されたあと、私はみなさんに一礼する。

「妻の美雨です。よろしくお願いいたします」

「そんなに固くならなくて大丈夫だ。ここにいるスタッフたちは数々のVIPを迎えた優秀な方たちだから。俺たちの結婚式も安心して任せよう」

 緊張している私の手を雪成さんが握りしめた。もう片方の腕は、抱き寄せるように背中を支える。

 気のせいだろうか……。

 ひとりの女性スタッフが、意外そうな表情で私を見ている気がする。

 想像でしかないのだけど、もしかしたら事前に誤った情報のニュースサイトを見ていて、マリカさんが雪成さんの奥さんだと思っていたのかもしれない。

 だから私が登場したので驚きを隠せないのではないだろうか。

 真相はわからないが、正直なリアクションがショックだった。

「美雨の希望を話してくれ。それが一番重要だからね」

 雪成さんに笑顔を向けられたけれど、顔が引きつる。

「わ、私の希望なんて……」

「今後の打ち合わせも妻の希望を最優先にしてほしい」

 雪成さんの指示に、スタッフたちがうなずいた。

 私は政略妻なんだから、希望なんて優先しなくてもいいのに……。

 本来ならここにいるべき人はほかにいると思うと、つい卑屈になってしまう。

 なるべく平常心でいるよう意識して、雪成さんと女性スタッフたちと一緒にドレスルームに移動した。

 扉を開けたとたんに視界いっぱいに広がる、華やかで夢のような世界に心がときめく。

「すごい……。こんなにたくさんあるのですね」

 美しく輝く憧れが詰まったドレスが並んでいて、一着ずつ見るたびに胸が躍った。

「気に入ったものがあれば言ってくれ。試着してみてほしい」

 雪成さんに促され、気持ちが揺れる。

 けれども、私は曖昧な笑みを浮かべた。

「ええと、ごめんなさい。どれも素敵すぎて選ぶのに時間がかかりそうです」

「こういったマーメイドラインも、優雅で上品な奥様には大変お似合いになるかと思いますよ」

 ひとりの女性スタッフが、近くにあった一着を手に取る。

 滑らかな生地はシルクだろうか。

 マーメイドラインの美しい曲線と、背後にあしらわれたリボンやレース使いが嘆息するほど素敵。

 素晴らしく魅力的なデザインだ。

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