策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
「ああ、すごくよく似合いそうだ。どう? 美雨」

 「……そうですね」

 雪成さんに尋ねられ、同意したものの、このウエストをキュッと絞ったラインは私には無理だろう。

 秋にはもっとお腹が目立っているはずだから。

「どこか具合が悪い?」

 雪成さんに聞かれた私はハッとした。

 無意識でお腹に手をあてていたと気づき、すぐにパッと離す。

「大丈夫です。少しお腹が空いて……いや、痛くて」

 なんとか誤魔化したとき、雪成さんは秘書の方から急な要件を告げられたようだ。

「済まない、美雨。帰国したらもう一度、ドレスを選び直そう」

 申し訳なさそうに眉を下げてそう言い残し、雪成さんはバタバタとアメリカへと出国した。

 きちんと話さなくてはいけないとわかっている。

 でもこんなふうにすれ違っては、先延ばしにしてしまう。

 雪成さんも体調を気遣ってくれたり普段と変わらず優しいけれど、私にマリカさんとの関係をどう説明しようか思い悩んでいるのかもしれない。

 私たちの間には重く、不穏な空気が流れていると感じる。

 帰宅すると、アメリカ滞在はそう長くはかからないと、雪成さんからメッセージが届いた。

 アメリカにはハワイのほかにフロリダやカリフォルニア、ラスベガスなどにもスイートキングズホテルが展開している。

 今回、城下不動産のアメリカ支社で、顧客情報が漏えいしたのではとの懸案事項の報告が上がったそうだ。

 しかし優秀なエンジニアたちの迅速な作業により、ハッキングは未然に防げたのだとか。

 移動中のプライベートジェットで、城下不動産のシステムにも異常はないと判断されたとのこと。

 社長自ら早急に出向くほどのトラブルなので心配したけれど、大事には至らなくて良かったとホッとする。

 とはいえ往復に一日は要するし、向こうで経過を確認するらしい。

 私は雪成さんの不在中にマンションを出る決意をした。

 これまで妊娠を打ち明け、話し合う機会を設けなかったのは、雪成さんの口から直接マリカさんを愛していると告白されるのが怖いからだ。

 けれどもこのままでは、誰も幸せにはなれない。

 実は数日前、初めて産婦人科を受診していた。

 ひとりで行くのは不安だったけれど、女医さんがエコーの画像を見ながら優しく説明してくれた。

 妊娠二ヶ月。胎嚢が見えて、無事心拍も確認できた。

 実感が湧き、エコー画面が涙で滲んで見えた。

 母親になるのだから、お腹の子を守らなくてはならない。

 傷つくことから逃げないで、行動に移そうと強く思った。

 だけど、どこに行ったらいいのだろう。

 実家に帰れば父に驚かれるし、甚大な迷惑がかかる。

 私たち家族だけではく、福本建設の従業員とその家族を守るためにも、慎重に行動しなくては……。
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