策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 ハワイ島で、マリカさんはパリを拠点に活動していると雪成さんから聞いた。

 それなのにどうして東京にいるのだろう。

 もしかして、明日帰国する雪成さんと会うため?

 そう予想すると、自分で余計な詮索をしたくせに、胸がギュッと強く掴まれたように痛む。

「うれしいわ。またあなたに会いたいと思っていたの」

 私の心情など知らず、マリカさんは優雅に微笑む。

 改めて真正面から至近距離で見ると、本当におきれいな方だ。

 これからなにを言われるのかと警戒して体を強張らせていると、マリカさんが不意に目を細めた。

「まさか雪成がこんなに一途に人を愛するなんて……ね?」

 顔が引きつったまま硬直した。

 どういう意味だろう……。政略結婚だと知っていて、皮肉だろうか?

 悲しくて、膝に置いた両手を強く握りしめる。

 愛する人の好きな人に対面し、暗に見下されては、胸が痛くて体が裂けそうになってくる。

 拳は目視できるくらい震えていた。

「私は、雪成さんが好きです。彼がたとえ、ほかの誰か……。マリカさんを思っているとしても」

 正直な気持ちを素直にマリカさんに伝える。

 直視できないけれど、彼女は目を大きく見開いているようだ。

「でも、ふたりの邪魔はしたくありません。雪成さんには幸せになってほしいです。政略結婚してくれたことも、感謝しています」

 言いながら、涙がこみ上げてきた。

 止まらなくて、ポタポタと手の甲に水滴が落ちる。

「あの、美雨さん」

 うつむいて肩を震わせる私に、マリカさんがささやいた。

 潤む視界を向けると、彼女は哀れみの表情を浮かべている。

「あなたがそこまで健気だとは、驚いたわ」

 困惑しつつも、マリカさんは目を細めてやわらかく微笑んだ。

 その穏やかな笑顔は予想外だったので、私は目をしばたたかせる。

「かわいらしい人だわ。雪成が夢中になるのもわかる」

「え?」

 雪成さんが夢中に……?

 意味がわからずキョトンとしていると、マリカさんはバッグの中からハンカチを取り出してこちらに差し出した。

「あのね、雪成と私との間には恋愛感情はないのよ。美雨さんはなにか誤解をしているんじゃないかしら?」
< 55 / 63 >

この作品をシェア

pagetop