策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 幸せに満ちた結婚式後、数カ月の穏やかな妊娠期間を過ごした。

 暦上は立春を迎えるも、空から雪がチラつくとても寒い日。

 私は都内の産婦人科で無事に男の子を出産した。

 仕事を中断してすぐに駆けつけてくれた雪成さんは、わが子を前に瞳を潤ませた。

 ひとしきり元気な泣き声を披露したのち、スヤスヤと眠っている様は本当に天使だ。

 顔立ちはこれからどんどん変わっていくだろうけれど、輪郭や目蓋、鼻筋はなんとなく雪成さんに似ているような気がする。

 彼が大切そうに抱いている姿を目の当たりにすると、瓜ふたつに感じてほっこりした。

 いとおしげに目を細め、息子の頭を撫でて頬に触れる。

 父親となった雪成さんのそんな優しい仕草に、胸がキュンとせずにはいられなかった。

 私のことも労い、大切にしてくれて、家族となったことに心から感謝した。

 それから、慣れない育児に奮闘すること二年。

 一晴(いっせい)と名付けた息子は、立派でやんちゃな二歳児となり、自宅保育中の私は彼の一挙手一投足になかなか手を焼いている。

 いたずらばかりのイヤイヤ盛り。体を動かすのが大好きで、日課は公園巡りだ。

 旧城下財閥の次期当主として、城下不動産だけではなく任されるグループ企業が拡大した雪成さんは、多忙を極め国内外を飛び回っていた。

 それでも帰宅すると、一晴とよく遊んでくれて、育児にも協力的。

 私にはできない体を使ったダイナミックな遊びができるから、一晴はパパが帰って来ると大喜び。

 私もそんなふたりの姿を見るのがうれしくて、大変だけれど日々幸せを感じている。

 一晴の三歳の誕生日が近づいた年末、久しぶりに雪成さんの休みがまとまって取れたので、私たちは家族三人で水沢旅館を訪れた。

 城下不動産による再開発のテコ入れの効果は絶大で、温泉街は観光客で溢れている。

 いまや水沢温泉郷は国内外の旅行ガイドブックに大きく掲載されるほど有名になり、母の実家である水沢旅館も多くの宿泊客で賑わっていた。

 フロントには雪成さんのお祖母様が撮影し、寄贈された紅葉の写真が飾られている。

「三人ともよく来たね。城下さん、ありがとうございます」

 出迎えてくれた叔父が、目尻にシワを寄せて一晴の頭を撫でる。

「一晴、おっきなお風呂があるよ」

 キョトンとした一晴は、事前に水沢旅館を写真で見せていたためすぐに場に馴染み、うれしそうにピョンピョンと飛び跳ねた。

「いっくん、はやくおっきなおふろいきたい!」

「それじゃあパパと行こう。楽しみだね」

 生粋のパパっ子である一晴は、雪成さんと相思相愛。

「うん! パパといく!」

 弾むような笑顔に心が和む。

 
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