策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
雪成さんは温泉の後、食事の席で叔父から美味しい地酒をすすめられ、どんどん飲まされた。
さすがに日々の疲れもあってか、布団に横になったが最後、微動だにしなくなった。
日中、紅葉の山で走り回った一晴も、雪成さんにふかふかのお布団で添い寝をされて、幸せそうにぐっすりと夢の中。
雪成さんはそんな一晴を、お祖母様の形見のカメラでたくさん写真におさめていた。
もちろん、今この瞬間に目に映る姿が特別なのだけれど、ずっと目に焼き付けておくわけにもいかないから、写真という形として残せるのはうれしい。
子どもの日々の成長は本当に著しいから。
あっという間に大きくなるんだろうな……。
うれしいような、さみしいような複雑な気分。
そんな貴重でかけがえのない光景を、大切な人のカメラで残せるのはすごくうれしい。
私は彼らのかたわらに膝を折り、並んだふたりの寝顔を眺める。
雪成さんのお祖母様が幼き日の私の姿を写真におさめてくださったことも、雪成さんに再会できたご縁と繋がってゆく未来もとても尊い。
自然と頬が綻んだ。
「お疲れなのに、家族サービスありがとうございます」
明日はまたほかの旅館の方たちから、ぜひうちに来てほしいと誘われている。
雪成さんはこの温泉街を存続させただけではなく、生まれ変わらせたヒーローだ。
ふたりに布団を掛けて、私もそろそろ寝ようかなと腰を上げたとき。
「待って、美雨」
パシッと腕を掴まれて、危うく声を上げそうになった。
一晴の寝顔を確認しながら、雪成さんがゆっくりと布団から起き上がる。
「起きてたのですね」
私は小声で囁いた。
「叔父にたくさん飲ませられてましたから、朝まで眠るのかと思いました」
掴まれた手で、熟睡する一晴の額をそっと撫でようとするも、雪成さんはニッと意味ありげに口角を上げて制止する。
「あのくらいで酔うわけないだろ?」
目をしばたたかせる時間が数秒あり、私は息を吐いた。
「また、私を騙したんですか?」
「騙しただなんて人聞きの悪い。俺はただ、きみに触れたいだけだよ」
雪成さんはスッと手を伸ばし、少し膨れた私の頬をまさぐる。
耳のうしろから後頭部を心地よく撫でられながら、唇が重なった。
やわらかい唇の感触をたしかめる行為は、次第に舌を絡める深い口づけに変わっていく。
極上に心地よいキス。
「ふっ、ん」
鼻から甘い息が漏れる。
頭の中がクラクラしてくるこの感覚に私が弱いと知っていて、その技を容赦なく駆使するなんてずるいし、それに。
「寝たフリなんて、ずるいです」
唇が離れた隙につぶやいて、握った拳で雪成さんの胸をトンと押し返す。
「ごめん。一晴と添い寝してたら気持ちよくなって、寝落ちしそうになったのは本当だよ」
雪成さんは片眉をピクリとつり上げ、頬に手のひらをあてて顔を覗き込んだ。
「でも、こっちこそ、いつもありがとう。家を空けてばかりで申し訳ないが、きみには心から感謝してる」
目を細めた雪成さんの前髪がサラリと揺れる。
魅惑的な光景に一瞬閉口し、状況を理解してからはとたんに恥ずかしくなる。
やっぱりさっきの独り言、聞かれてたんだ……。
「続きはできる? それともこのままお預け?」
伺いを立てる口ぶりとは裏腹に、雪成さんは微笑みながら私をふかふかの敷布団に追い詰めた。
こんなふうに迫られては私は首を横に振らないと、雪成さんはわかっているだろう。
覆いかぶされて逃げ場はなくなり、唯一無二の大好きなぬくもりを全身で受け入れようとしたそのとき。
「ママ、ずるい! いっくんもパパとギューする!」
真横で寝息を立てていたはずの一晴が急にムクッと起き上がる。
眠気眼でパパを独り占めする私を確認したのだろう。
「ご、ごめんね! いっくんもギューしようね」
私は慌てて起き上がり、一晴を抱き寄せる。
あたかも根負けしたふうな柔和な笑みをこぼす雪成さんが、大きく両手を広げ、私たちの体をまるごと抱きしめた。
幸せなぬくもりに満たされて、出会いに感謝したいと心から思った。
完
さすがに日々の疲れもあってか、布団に横になったが最後、微動だにしなくなった。
日中、紅葉の山で走り回った一晴も、雪成さんにふかふかのお布団で添い寝をされて、幸せそうにぐっすりと夢の中。
雪成さんはそんな一晴を、お祖母様の形見のカメラでたくさん写真におさめていた。
もちろん、今この瞬間に目に映る姿が特別なのだけれど、ずっと目に焼き付けておくわけにもいかないから、写真という形として残せるのはうれしい。
子どもの日々の成長は本当に著しいから。
あっという間に大きくなるんだろうな……。
うれしいような、さみしいような複雑な気分。
そんな貴重でかけがえのない光景を、大切な人のカメラで残せるのはすごくうれしい。
私は彼らのかたわらに膝を折り、並んだふたりの寝顔を眺める。
雪成さんのお祖母様が幼き日の私の姿を写真におさめてくださったことも、雪成さんに再会できたご縁と繋がってゆく未来もとても尊い。
自然と頬が綻んだ。
「お疲れなのに、家族サービスありがとうございます」
明日はまたほかの旅館の方たちから、ぜひうちに来てほしいと誘われている。
雪成さんはこの温泉街を存続させただけではなく、生まれ変わらせたヒーローだ。
ふたりに布団を掛けて、私もそろそろ寝ようかなと腰を上げたとき。
「待って、美雨」
パシッと腕を掴まれて、危うく声を上げそうになった。
一晴の寝顔を確認しながら、雪成さんがゆっくりと布団から起き上がる。
「起きてたのですね」
私は小声で囁いた。
「叔父にたくさん飲ませられてましたから、朝まで眠るのかと思いました」
掴まれた手で、熟睡する一晴の額をそっと撫でようとするも、雪成さんはニッと意味ありげに口角を上げて制止する。
「あのくらいで酔うわけないだろ?」
目をしばたたかせる時間が数秒あり、私は息を吐いた。
「また、私を騙したんですか?」
「騙しただなんて人聞きの悪い。俺はただ、きみに触れたいだけだよ」
雪成さんはスッと手を伸ばし、少し膨れた私の頬をまさぐる。
耳のうしろから後頭部を心地よく撫でられながら、唇が重なった。
やわらかい唇の感触をたしかめる行為は、次第に舌を絡める深い口づけに変わっていく。
極上に心地よいキス。
「ふっ、ん」
鼻から甘い息が漏れる。
頭の中がクラクラしてくるこの感覚に私が弱いと知っていて、その技を容赦なく駆使するなんてずるいし、それに。
「寝たフリなんて、ずるいです」
唇が離れた隙につぶやいて、握った拳で雪成さんの胸をトンと押し返す。
「ごめん。一晴と添い寝してたら気持ちよくなって、寝落ちしそうになったのは本当だよ」
雪成さんは片眉をピクリとつり上げ、頬に手のひらをあてて顔を覗き込んだ。
「でも、こっちこそ、いつもありがとう。家を空けてばかりで申し訳ないが、きみには心から感謝してる」
目を細めた雪成さんの前髪がサラリと揺れる。
魅惑的な光景に一瞬閉口し、状況を理解してからはとたんに恥ずかしくなる。
やっぱりさっきの独り言、聞かれてたんだ……。
「続きはできる? それともこのままお預け?」
伺いを立てる口ぶりとは裏腹に、雪成さんは微笑みながら私をふかふかの敷布団に追い詰めた。
こんなふうに迫られては私は首を横に振らないと、雪成さんはわかっているだろう。
覆いかぶされて逃げ場はなくなり、唯一無二の大好きなぬくもりを全身で受け入れようとしたそのとき。
「ママ、ずるい! いっくんもパパとギューする!」
真横で寝息を立てていたはずの一晴が急にムクッと起き上がる。
眠気眼でパパを独り占めする私を確認したのだろう。
「ご、ごめんね! いっくんもギューしようね」
私は慌てて起き上がり、一晴を抱き寄せる。
あたかも根負けしたふうな柔和な笑みをこぼす雪成さんが、大きく両手を広げ、私たちの体をまるごと抱きしめた。
幸せなぬくもりに満たされて、出会いに感謝したいと心から思った。
完


