策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
 そして、今。

「本日はお越しくださり、どうもありがとうございます。お会い出来て光栄ですし、なにより美雨さんは結婚に大変前向きなようで、なによりです」

 含みを持った笑い方をする彼、城下雪成さんに、私が二週間前に遭遇していたとは、父は知る由もない。

 キョトンとする父の隣で、動悸が激しくて苦しかった。

 だからといってずっとうつむいているわけにもいかないので、チラリと城下さんを見る。

 やっぱり……。絶対そうだ。

 私を助けてくれたホテルスタッフらしき方と同一人物だ。

 一度見たら決して忘れられないほど、城下さんは氷像かのごとく芸術的に整った容貌をしている。

「美雨さんとふたりでお話したいのですが」

 氷像の唇が動いた。

 両肩をビクッと盛大に揺らした私とは対照的に、父は歓迎ムードで即座に私の椅子を引き立ち上がらせる。

「どうぞどうぞ。不束者ではございますが、心ゆくまでお話してください」

 ぎこちなく立ち上がった私はうれしそうな父に背中をトンと押され、部屋の外を手で指し示す城下さんに従った。

 エレベーターホールに向かう城下さんの後について歩きながら、なんとか心を落ち着かせ、呼吸を整える。

 およそ一ヶ月前、父から政略結婚を提案されたのは、なにも寝耳に水な話ではなかった。

 父が社長を務める福本建設は大手の建設会社だが、近年経営に少々不安をきたしている。

 その理由には、私から父へのひと言が関係していた。

 だから、経営に不穏な影を落とし始めているのは見過ごせない。

 従業員とその家族の生活、そして父と亡き母との大切な思い出を守るために、私がなんとかしなくては……。

 責任を取ると覚悟して、今日の顔合わせに参加した。

 そんな私たちに政略結婚を申し出てくれたのは、弱冠三十一歳にして財閥御曹司のホテル王。

 リゾートホテルの建設、運営のほか、マンション建設や都市開発を世界各地で行う大企業、城下不動産の取締役社長、城下雪成さん。

 展開する関連ホテルは日本のみならず百以上の国に渡り、その数は五千軒を超え、国内外から人気が高い。

 それに、旧城下財閥と聞けば国内に知らない人はいないだろう。

 解体したとはいえ関連企業は数多く、日本経済を支える存在だと言っても過言ではない。
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