優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください

(でも、どうして一ノ瀬君はあんなに変わったんだろう)

 1年の時を経て、彼は間違いなく大きく成長した。風の噂では、大型プロジェクトはえげつない程大変だったらしい。
 記憶の中の一ノ瀬君は、もっと掴みどころのない、どこか危うい青さを持った青年だった。言語能力は高いのに自分の考えを言葉にしたがらない節があり、有能なのに孤独に苛まれているように見える時さえもあった。

 少なくとも、あの頃の彼には今の彼のような、私に対しての積極性は微塵もなかったはず。

 それとも、最初から今のような性格だったのだろうか。私が教育係という立場に胡坐をかいて、彼の本性を見逃していただけなのだろうか。

「うーん…人間って難しい」
「先輩は割と分かりやすいですけどね」

 独り言に言葉が返って来た。慌てて声がした方を向くと、一ノ瀬君が爽やか笑みと共に近づいてくるのが見えた。あまりの神出鬼没具合に、喉の奥から変な声が出てしまう。

「な、んでここにいるのよ」
「え、聞きます?」

 その言葉に全力で拒否する。こういう言い回しの時は、ロクなことじゃない。私の拒否ぶりに笑った一ノ瀬君は、わざとらしく眉を上げ、私の顔を覗き込んできた。

「先輩、今日は何で帰ります?」
「いつも通り電車だけど…」
「遅延してますよ」
「えっ!?」

 慌てて自分のスマホで確認すると、そこには帰宅で使う線が大雨の影響で遅延していることが分かった。ただでさえ人の多い金曜日。帰りの電車内が地獄と化すことが決定してしまった。

「うっそ~…」
「そこで提案があるんですけど、聞くだけ聞きません?」

 待ってましたとばかりに人差し指を立てる一ノ瀬君。嫌な予感はするものの、聞くだけなら、と小さく頷いた。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop