優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「僕、今日タクシーで帰るんです。予約も込み合う前に済ませておいたので、今は配車待ちです。良かったら、先輩も乗っていきませんか?」

 最高の提案だ。タクシー代も2人で割れば安く済むし、満員電車で帰らなくてすむ。
 それなら、…と頷きかけたところで気づく。

「そういえば、一ノ瀬君ってどこに住んでるの?」
「僕ですか?あー…まあ、会社から南の方ですね」

 つまり、私と対極の方角に住んでいると。彼の家に行ってから私の家に向かってもらうことになると、タクシー代がとんでもないことになってしまう。危ない、寸前で気づけて良かった。

「提案は有難かったんだけど、そんなにお金ないからごめんね。電車も運休ではないし、のんびり帰るよ」

 そう言うと、一ノ瀬君は固まってしまった。まるで通信エラーのような状態の彼に首を傾げていると、何とも言えない表情で見下ろされる。

「先輩。僕の家に泊まればいいじゃないですか。そうすれば、タクシー代も安く済みますよ」
「え、普通に嫌だけど」

 素直に返すと、さらに絶句されてしまう。いや、普通に考えて後輩の家に泊まるのは嫌でしょ。着替えも何も持ってないし、それならネカフェでも何でも探すよ。

「じゃ、じゃあ、僕が先輩の家にお邪魔するのはどうですか?」
「えー…」
「そうすれば万事解決じゃないですか」
「ナシかな」

 素直にそう言うと、一ノ瀬君は顔を歪めた。
 なんていうか…

「今日、表情豊かだね」
「はい?いきなりなんですか?」

 私の急な言葉に、彼は訝しげにこちらを見た。その表情もまた、いつもと少し違って見える。
< 12 / 14 >

この作品をシェア

pagetop